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ファースト・イン・クラス・・・でも。

医薬品産業は私が新卒の頃は勢いがありました。接待して特に大した薬ではなくても売り上げを伸ばし、また治験もゆるくて、どんどん新薬が登場していました。その中には市販後に効果が不十分とされて薬価削除になったりした製品もあります。今では信じられません。そんな産業の中で、業界の大半を占める営業部隊、つまりMRは平和に暮らしていました。医薬品業界の中の競争があったとしても、別業界から見れば、高収入ですし、休みもたくさんとれますし、医薬品業界は本当に良い業界だとみんなが思っていました。

 
医薬品は研究開発に莫大な費用がかかるとはいえ、一度世の中に出てしまえば、国が定めた薬価の元に安定した高収益、高利益率の製品であるということが特徴の一つです。世の中に出せば、売れる。国に守られる。しかも高い利益が得られるということで、製薬業界のみならず、発酵技術を持った異業界もこぞって参入してきました。発酵技術・・・アルコールや、化学、繊維業界が医薬品に参入する主な業界でした。例えば、ヤクルト、協和発酵、帝人、キリンビール、旭化成、クレハなどなどは、その技術力を医薬品に生かして製品化し、成功した医薬品兼業メーカーと言えるのです。それだけ、企業にとっては医薬品を世の中に出せば、おいしい時代だったのです。それが医薬品業界です。

 
ところがここ数年医薬品業界は受難の連続です。まず第一に特許切れによる大型新薬の売り上げ減に端を発する大幅なリストラです。国内大手上場企業のような、見るからに優良企業、株価も高値で安定し、殆どの社員がが新卒入社から定年まで過ごし、高い給料をもらって立派に家族を養っていくことが当然のような企業、例えば大日本住友、田辺三菱、第一三共で起こったリストラは、センセーショナルでした。

 
最近の受難は、もっぱら薬価です。著しい高薬価の製品が相次いで登場し、医療費を圧迫しているという議論が持ち上がりました。例えばギリアドのC型肝炎の薬です。著しい高薬価、しかしながら効果も劇的です。劇的に奏功するからこそ高薬価でも売れる。奏功するから患者からは望まれ、高薬価でも国も認めざるを得ない。こんな構造が相次ぎました。

 
高薬価の製品を次々承認してきたわけですが、医療費の圧迫で限界があり、機構もついに動いたのがオプジーボです。患者一人に年間3500万円かかるわけですから。政府はついに薬価見直しにでて、オプジーボの薬価を半額にするという無茶とも思える議案が普通に通ってしまいました。半額といったらすごいです。算定していた売り上げや利益が半分になるわけですから。この事件の後に追随していたキイトルーダは一旦薬価収載を引き延ばしました。そりゃ、同種品が薬価半額になった後の収載となっては、当初目論んでいた額からだいぶ下回ってしまう恐れがあります。キイトルーダだけではなくさらに追随するPD1、PDL1のメーカーがPMDAに申し入れをしそうになりました。緊急に開かれた中医協では、なんら答えは出ずに、「慎重に対処すべき」という方向に終始しました。

 
またここに来て政府は、2年に1回の薬価改定を変更して、毎年行うように決定をしつつあります。しかも対象品目が全製品にということなのです。薬価改定というのは、基本的に薬価が下がりますので、今後は毎年医薬品の薬価が下がるということになるのです。

 
開発力を総動員してファースト・イン・クラスの製品の開発に成功してこれから回収をしなければならない製薬企業。効き目も切れ味も抜群の製品であるけど当然薬価も高い。国から守られた収益を得ることは、医薬品業界にとっては高いモチベーションになるわけです。苦労して切れ味抜群の製品を開発したからこそ、薬価も高いのです。薬価が高ければ企業にとっては高利益で高収入が期待され、高収益が確保されるわけです。

 
ところが毎年のように薬価が下がれば、製薬企業のモチベーションは下がりまくりです。それどころか、製薬企業で働いていることそのものが、だいぶ揺らいでくる可能性も出て来ました。
ファイザーの梅田社長はこの薬価改定によって、かつて隆盛を極めた医薬品産業が、一転不況産業に陥る危険性を示唆しています。
製薬企業に入ればハッピーという時代の終焉。一転して、製薬業界に就職したことが不幸に??????
そんなことがあってはならないのです。

 
この高い薬価を使わせることを避けるような政府のからくり的なものを感じてしまうのが、いわゆる処方についての縛りです。とてつもなく高額な研究開発のコストをかけて社運をかけて世の中に出した薬が思うように売れない現象が発生しています。例えばpcsk9に代表されるような処方の縛りです。2週間しか出せないとか、「HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る」などの縛りが、高薬価の製品の売り上げを邪魔しています。HMG-CoAといえば、もう何年も前にジェネリックが出ています。政府としてはpcsk9を使わせる前にリピトールのジェネリックを使わせることができれば、医療費の抑制に成功したと言えるのでしょうか。おかげでpcsk9は当初見込まれていた売り上げ計画を大幅に下回っています。

 
ファーマコジェノミックスや大規模治験、AIの活用で、切れ味の良い薬や、今までになかったピカ新が今後色々な領域で発売を控えています。それぞれの課題は薬価収載になっています。製薬企業にとってはどんな薬価で収載されるか、高いレベルの戦略が課題で、いわば至上命題になりつつあります。
ファースト・イン・クラスの製品を出してもブロックバスターに成長しない大きな原因である、この薬価制度を突破しないと高い研究開発のコストさえ回収できない恐れも出てきています。
一方で薬剤費が医療費を圧迫していることは事実なのです。ここは医薬品企業として無視できない状況であります。医療費を意識しています、だから同時にジェネリックの部署も作っています。予防医学にも、積極的に取り組んでいます。でも、新薬は高い薬価をお願いします。
これらの企業のもつジレンマを外にうまく発信できる企業は優秀です。

 
かつては、花形の敏腕MRの力で売って、その後KOLとの蜜月のつながりで効かない薬を世の中に出して売り上げを伸ばし、それが批判されると一転してコンプライアンスやダイバーシティなど企業文化で勝負し始め、持ちこたえられずにリストラをして株主に何とかアピールして持ちこたえ、ジェネリックメーカーを買収してフルラインを目指し、最近は遺伝子やAIの進歩により誕生した切れ味鋭い製品の力で売ってきた製薬企業。時代によって、営業力や開発力、企業文化など、花形のポジションも変遷してきました。

 
これからの製薬企業の花形ポスト、これは間違いなく、マーケットアクセス、HEOR、マーケットアウトカムなどの、薬価収載に関連するポジションではないでしょうか。例えば、処方の縛りをなくすことに成功したマーケットアクセスの社員がいたら、その人は社長賞どころか、永久に功績を讃えられても良いくらいの人物になります。まるでヤンキースの永久欠番にしても良いくらいの功績になるでしょう。昔でいう、薬価担当ということでしょうか。

 
今後の製薬企業が取るべき人材は、マーケットアクセス、HEORなどなどで優れた人材です。いかに有利な薬価、いかに有利な処方状況を、戦略的に作り出して、機構や政府と折衝できて、なおかつ業界の今後のトレンドにとても敏感な人。こういう人材の良し悪しで、企業の運命が変わると言っても過言ではありません。

 
薬価が今後の製薬企業の重要なキーワードです。

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POCT  新しくて熱いマーケット

POCT  「臨床現場即時検査」 新しくて熱いマーケット

日本が超高齢化社会であること、医療費が国の予算を圧迫していること、医師、看護師などの医療従事者が大幅に不足していること。これらのことは言わずもがな、論ずるまでもありません。医療政策は待った無しなのです。2015年6月に出た政府の「骨太の方針改革」の中でも医療費抑制は待った無しの課題でした。甘利内閣府担当特命大臣は、医療、適正化も「成長の新エンジン」と意気込み、挑戦できる事柄は全部やるとして、2020年度のプライマリーバランス黒字化に向けて決意を示して、同日に成長戦略「日本再興戦略 改訂2015」も閣議決定したのです。こうしている間にも、60歳以上の人口はどんどん増え、疾病の発症人口がさらに高まっているのです。がん、リウマチ、アルツハイマー、肺炎、肝炎は60歳で発症率が上がり、人工透析に初めてかかる年齢も60歳から増えます。

今更ながら、敢えて言えば、もう医療費の抑制は待った無しということではなく、期限をとっくに過ぎてしまってさえいるのです。

そこで前述の骨太の方針なのですが、見ると中身の薄さに唖然とします。何故かといえばこれだけ事態がさしせまって何らかの施作を要しているにもかかわらず、内容が「ジェネリック医薬品の使用適正化」に終始しているのです。確かにジェネリックの普及は医療費の削減につながるのですが、なんだか20年以上変わっていませんよね。薬価も高すぎますね。

POCT  熱いマーケット

ジェネリックの普及もさることながら、それ以外の方法で医療費の削減に大きく寄与することがあると思います。例えば糖尿病で考えると、検査して糖尿病であることがわかり、運動療法と薬物治療をしていきますね。血糖値をモニタリングすることは今や通院しなくても血糖測定キットがだいぶ普及しています。おそらくしばらくの間は薬物治療になることになるのかと思いますが、自己測定キットがあれば、病院での検査は少ない回数で済みますよね。病院で採血しますと、保険点数が発生して医療費がかかりますが、このキットは、市販で買えるので医療費の抑制になりますね。これが実はPOCTと言われています。

POCTは医療費抑制だけでなく、適切な治療指針を決定するスピードを早めることなど、様々な利点があるのです。日本臨床検査自動化学会が定めたPOCTガイドラインによりますと、POCTは次のように定義されています。

POCTとは、被検者の傍らで医療従事者が行う検査であり、検査時間の短縮および被検者が検査を身近に感ずるという利点を活かし、迅速かつ適切な診療・看護・疾患の予防、健康増進等に寄与し、ひいては医療の質を、被験者のQOL(Quality of life)に資する検査である。

つまり、病院でも家庭でもその他の場所でも、簡単で身近な検査が可能ということなのです。POCTはPoint of care testing、臨床現場即時検査というふうに日本語では訳されて、被検者の近く、当初は病院内なら、ベッドサイドや診察室というのが一般的でしたが、次第に病院の外の薬局、自宅で行う場合も定義に入ってきました。ただこの日本語訳に関しては、天理よろづ相談所病院臨床病理部部長である松尾収二先生によると、あまり良い命名ではないようです。検査の種類ということよりも、医療の質や結果思考の考え方がもっと日本語に盛り込まれるべきだとしているのですが、なかなか旨い日本語がないようです。

POCTの種類ですが、奈良県臨床衛生検査技師会のホームページに天理よろず相談所病院の松尾先生が寄稿されていてその表によるとありとあらゆる検査項目があり驚きます。がんの腫瘍マーカーまでPOCTの項目に入っていますね。
アメリカではかなり普及しているようですが日本では今までなかなか普及してきませんでした。ところが、前述の政府の骨太方針では民間資本の導入をかなり意識しているようで、そうなると各検査メーカー、試薬メーカーもこの日本のマーケットを注目しないわけがないのです。いよいよ、日本にのPOCTマーケットが熱くなるのではないかと思っています。試薬メーカーは今までなんとなく医薬品の縁の下というイメージがあったのですが、考えてみれば分子標的のコンパニオンドラッグなどはそもそも試薬がなければ成り立たないマーケットで、いわば、試薬メーカーの存在なしには立ち行かなくなってきてはいたのです。いよいよ検査、試薬、この辺りのキーワードが日の目を見る時代に突入でしょうか。

各社を見てみると、東邦薬品などの大手ディーラーも動き出しています。メーカーでみると、GEの超音波画像診断装置、シーメンス社のPOCT装置「ACUSON Freestyle」、睡眠時無呼吸症候群で使用するC-PAPを展開しているフィリップスは、従来その診断には入院が必要だった検査を入院せずに、家庭で可能にした携帯型睡眠評価装置「ウォッチパット」を市場に導入しています。これらは大幅な医療費の削減とQOLの向上につながる画期的な製品ですね。

なかなか日本で普及しなかったPOCT。これはドラッグラグやデバイスラグにも似ていると思います。技術的にも、制度的にも、政治的にも、そして人材的にも課題があり、なおかつ患者そのもののメンタリティーなどの課題もあるのだろうと思います。自分でできると言われても、お医者さんにやってもらったほうが安心という患者さんもたくさんいるでしょう。ここは、さらなる普及を促進する対策が必要になるかと思います。そのためには教育や啓発が必要になるのかなと思います。最近、POCTの普及のためにPOCコーディネータという役割が生まれました。POCを患者、医師、コメディカルに正しく伝える仕事です。このような役割が行く行く資格化されるかもしれませんね。また、メーカー側もこのマーケットに本腰を入れ始めてきていて、優秀な人材をこのPOCT市場にアサインしようとする動きがあります。企業の積極かつ正しいマーケティング活動が進むと、医療機関、医療従事者、患者への浸透は早いと思います。医薬品で最近あまり旨味を感じなくなった企業はこの熱いマーケットに次々と参入してくるに違いありません。