少し前ですが、古いMRの友人が、かなりデスパレートな雰囲気で電話をしてきました。
「山崎さん、何かない?」 僕はリクルーターなので、「何か」とは、もちろん転職先のことです。しかしながら、彼はもうすぐ45歳。MRではなかなか良い案件は出てきません。聞いたところよると、彼はいろいろと紆余曲折があり、現在ではコントラクトMRをしているとのこと。そして、そのコントラクトのプロジェクト先が、とある化学メーカー。その化学メーカーの名前は、だれでも良く知っているのですが、MRがその会社に居る事を僕は知りませんでしたし、少々驚きでした。
「へえ、その会社って、MR居るの?」 僕の質問に彼が答えてくれたのですが、そもそも20年以上前にその化学メーカーが開発して某大手国内製薬企業に導出した医薬品があるそうです。そして、その医薬品は未だに販売中止にならずに、細々と売れているそうです。ここまでなら、特段驚く話ではありません。 最近、その20年以上前の医薬品の製造元である、その化学メーカーが、自前でもプロモーションをすることになり、社史始まって以来、MR部隊を作ったとのこと、そして20人くらいの組織が編成され、そのすべてがコントラクトMRで充足されたとのことです。 なるほど、まあ、兼業メーカーの医薬品部門と考えれば、つじつまの合う話ではあります。 しかしながら、この化学メーカーの給与水準は当然のことながら医薬品業界よりもはるかに低いそうです。さらに、やはり、カルチャーというか、その化学メーカーの元々の社員とは全く馴染むことが無く、その化学メーカー出身の部門長も、MR部隊のハンドリングに訳がわからず四苦八苦していたとのこと。
「そりゃ、そうだよーー!!」 今まで全く別業界の人が、いきなりMRのマネジメントなんて、できるわけ無いよ。僕の発言に彼もうなずいているのですが、話は、まだまだ終わりません。最近、その化学メーカーの付け焼刃の医薬品営業部門に、販売元であるその国内大手製薬メーカーから、次々と出向者が来ているとのこと。出向者は、元々MRをやっていた方々で、すべて55歳以上。医薬品メーカーでの役職はそれぞれ研修部長だの、くすり相談室長だの、学術第6グループ長だの、さまざま。つまり、MR出身の本社勤務のおじさん達です。おじさん達なんと10人が、その化学メーカーにやって来たとのこと。
「で、その人たち、何やってるの?」 僕の質問に、彼が言うには、完全にその製薬企業のリストラの一環で、その化学メーカーは、とりあえずリストラ者の受け皿になったとのことです。役職はそれらしいものがそれぞれついていますが、外回りをするわけでもなく、ただただ会社のデスクに一日座っているとのこと。 MR20人の部隊に対して、間接部門というか、おじさんたちが10人です。さらに、彼が続けるには、このおじさんたちが、暇で暇で耐えられないらしく、やたらと同行をしたがるとのこと。一応、上司という形にはなっているので、もちろん断ることができず、毎日のようにおじさんを車の助手席に乗せて、病院をまわっているそうです。
「それは、大変だわ。」 僕が言うと、彼はさらに続けました。おじさんたちは、もちろん、今まで長年勤め上げたその大手製薬企業から、干されてやってきた感があるので、ネガティブオーラを常にばら撒いていると。車の中でも、愚痴ばかり聞かされているらしいです。とくに、給料の話はシリアスで、半分近くまで減ったというため息と、怨念を毎日毎日聞かされているとのこと。確かに、大手製薬会社で55歳のおじさんだったら、まあ、出世してない人てもだいたい1400万円くらいは貰っているはずです。半分近くに減ったということは、つまりだいたい800万円くらいになったのかもしれませんが、それでもその化学メーカーからしてみれば、スタンダード、というか、むしろ高いほうなのではないでしょうか。納得できる話ではあるのです。そして、昼ごはんを一緒に食べると、おじさんは用事があると言って、どこかに行ってしまうらしいです・・・。
バリバリのMR20人におじさん10人。おじさんたちにとっては、同行者選びも奪い合いかもしれませんね。さらに、コントラクトMRの中には、異業種で優秀な営業マンとして活躍し、コントラクトMRに転進し、MR資格を取得して、これから医薬品業界で生きていこうという、ポジティブオーラ満々の方々も多いのです。そんな、ポジティブオーラ満載の車の助手席に乗るおじさんたち。そのコントラストを考えると、笑うに笑えないですよ。 大手国内メーカーは、いよいよその人員整理に手をつけるときが来たのかもしれないですね。