「スペック高い人材」は、医者と向き合えるのか?

皆さま、いかがお過ごしですか。イーロンマスクはトランプ大統領に、ちょっと言いすぎた、と反省したらしいですね。それをトランプ大統領は評価しているとのこと。まあ、わかりやすくて、素晴らしいと思いますよ。

素晴らしいと思うのは、イーロンが、自分の行動や発言に気づけることですよね。そして素直に反省できること。さすが、イーロン。

さてさて、こちらのメディカル部門の方も、反省できるでしょうか?


ある日、現場MRが本社から来たメディカル部門の担当者を連れて、大学病院の某教授を訪問しました。

本社のその方は、海外PhD、論文多数、英語ペラペラ、いわゆる**“スペックの塊”**。
一見無敵に見えるのですが――現場経験はゼロ。

面談中、教授が少し専門的な話をしたときに、その内容に誤りがありました。
それに気付いた本社の担当者、反射的にこう言ってしまったのです。

「それは正確には違います。正しくは……」

‼️‼️‼️😱

(担当MRはこの瞬間頭真っ白)

担当MRは、メディカル担当のこの発言の0.2秒後にはすでに、明日朝イチで謝罪に来て、なんなら、夕方、教授の帰宅の出待ちして、なんか美味しい話、講演会講師の話か何かを持ってきて、等等、今後半年くらいの自分がするべき行動が走馬灯のように脳裏をよぎっていることと思います。
……終わりました。
教授の表情がスッと冷たくなり、空気が凍りつきます。
面談終了後、「あれは無いな」と呟いた教授の声が、廊下まで聞こえました。


■ エリート vs. 現場の空気

もしこの場に、ベテランのMRがひとりでいたとしたら――
教授の誤りに気付きつつも、表情一つ変えずにこう切り返したでしょう。

「なるほど先生、その視点は非常に興味深いです。ちなみに最近こういうデータも出てまして……先生のご見解、ぜひ伺いたいんですが」

つまり、**“気づかせ”て、“気づかせたことに気づかせない”**という、まるで忍者のような話術。

教授を持ち上げながら、教授に自分の間違いを気づかせながら、気がついたら、教授もこちらの言い分を納得している。

これが、MRなのです。

これは、他のどの業界の営業マンにもできないことだと思います。IT企業のプリセールスとかにはできないですよ。


■ 感情労働と「人間の厚み」

今どき、「論理的」「賢い」だけでは通用しないことも多いのが、医療現場のリアル。
特に大学病院の教授ともなると、プライド・自尊心・空気がすべて混じり合った、独特の世界が広がっています。

しかも、それも人それぞれです。わかりやすくプライド高いだけの先生なら、対応はむしろ簡単です。

ところが、人間って、そんな単純じゃないですよね。

対応や物腰は物凄く気さくで良い人。ついつい、こちらも対応に油断してしまいますが、実は人一倍プライドが高かったり。そういう人、難しいです。

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*  *
僕も、大昔ですが、新人の頃、某世田谷区の開業医回ってた時ですが、その医院は一軒家で、入り口に入ると、いつも奥様がラフな格好で、家事をしながら、対応してくれます。

「はーい、ちょっとお待ちくださいねー。」

奥様がそういうと、庭で家庭菜園をしている先生を呼んできてくれます。先生が来ると、「おう、なんだ? わかった、使うから。 明日使うよ。」
そう言って、本当に処方してくれたりしました。

いやあ、で、ちょくちょくその医院に行くようになり、奥様が若い僕に対して、いろいろご自分の息子さんの話とかするので、僕もついつい、ラフな話し方になったりしていて、ついつい、「あ、いや、大丈夫。」とか、タメ語になったりしたりしていたのです。

で、担当先が追加になり、地域の少し大きな病院を担当したら、なんと!その奥様が、とある診療科の部長だったのです!!!!

唖然としました。

それからというもの、クリニックとか医院とかにいる、奥様とか、なんか、ラフに話しかけてくる人とか、掃除しているおばちゃんとかを見た時は、もうみんな医師だと思うようにしました。

営業経験者は、こうした「地雷原」を歩く術を、体で覚えています。
場の温度、言葉の間、相手のまばたきの回数さえも読み取りながら、**“人間としての厚み”**で勝負しているのです。


■ 「泥臭さ」の価値、再評価しませんか?

MBA、PhD、英語、留学――どれも素晴らしい。
でも、現場では「すごい人」よりも、「感じのいい人」が勝つこともある。

そりゃありますよ。

例えば、MRなら、数字を上げることが重要な評価の指標につながります。当たり前です。

でも考えてみてください。例えばもしその人がコントラクトMRだったら、もちろん数字を上げることは素晴らしいことですが、CSO企業のその人に対する評価は、数字もさることながら、「周りのみんなと上手くやってくれる。」というのが、優先される評価基準になります。

メーカー正社員は数字。CSOからきているMRは数字もですが、もっと大事なのは、そのクライアントであるメーカーの人々とうまくやってくれること。で、次のCMRオーダーももらえるという事なのです。

現場で何が求められているのか?
本社で何が求められているのか?
この二つには、大きな違いがあるのかと思います。

本社の人が現場に降りてきて、医師に会って、医師を不機嫌にさせちゃうとか。あるあるです。

実は逆もあります。

MRが、イキって本社に異動になって、昔お世話になった大大KOLとかに携帯で突然電話して、

「あ、先生、元気ですか? 今本社勤務ですよ僕。 信じられないっすよね。 ウチの薬の治験、進んでるのか、みんな気にしてますよ。 せんせー、お願いしまーす!」

みたいな電話をオフィス中に聞こえるような声でやっても、誰も興味ありませんし、誰もそれが凄い事とか、思いません。KOLとの関係が強いことをドヤっても、意味がありませんし、価値もありません。

これが、現場と本社の大きな差なので、その両方の空気感がわかるようになれば、最強です。

そのギャップに気づいたとき、本社側にも、現場にも行ける、スーパー製薬マンの誕生となるわけです。


まあ、そんなわけで。

とはいえ、どんどん採用も進化します。

今までは、アクセンチュアとか大手商社とかに行くような人材が、製薬本社に新卒で来たりしています。

現場力とは、正しさより、感じの良さ。
正論より、納得感。
知識より、“この人にまた会いたい”と思わせる力。

泥臭いスキルが、令和の今、見直されつつあります。
「スペック高い自分」を過信せず、“相手の感情を読む”力も、キャリアの武器にしていきませんか?