【外資×AI図鑑002】ファイザー:ChatGPTより使える?AWSとつくる「社員向け生成AI」の衝撃

みなさまお元気ですか。

今回は製薬業界の巨人、ファイザー(Pfizer)の生成AI戦略について深掘りしていきます。正直、この取り組みを知ったとき、「これは他社も真似せざるを得ないな」と感じました。

なぜ今、ファイザーが生成AIに本腰を入れるのか

生成AIブームも一段落し、「で、結局どう使うの?」という実用フェーズに入っています。そんな中、ファイザーの動きが興味深いのは、ChatGPTをそのまま使うという安易な選択を避けている点です。

製薬業界という特性上、以下のような課題があります:

  • 規制対応の厳格さ:FDA申請書類から社内SOPまで、すべてが厳密な品質管理下にある
  • 機密情報の取り扱い:新薬開発データや臨床試験結果など、漏洩は絶対に避けたい情報が山積み
  • グローバル対応:世界各国の規制に対応する必要があり、言語や文化の違いも考慮が必要

つまり、**「汎用的なChatGPTでは到底対応できない」**という現実があるわけです。

Amazon Bedrockという選択の妙

ファイザーが採用したのは「Amazon Bedrock」。これ、実は相当賢い選択だと思います。

なぜBedrockなのか

  1. マルチモデル対応
    • Anthropic Claude
    • Meta Llama 2
    • Amazon Titan など、複数のAIモデルを用途に応じて使い分け可能
  2. セキュリティ重視
    • AWS環境内での完全なデータコントロール
    • 外部への情報漏洩リスクを最小化
  3. カスタマイズ性
    • 自社データでのファインチューニング
    • 社内システムとの連携

具体的な活用シーン

ファイザーの活用例を見ると、その実用性の高さがよく分かります:

薬事関連文書のドラフト作成 製薬業界で最も時間のかかる業務の一つ。規制当局への申請書類は膨大で、しかも高い精度が求められます。AIが下書きを作成することで、専門家は最終チェックに集中できる。

社内規定や法務チェックの自動要約 これ、地味だけど効果絶大です。新しい規制が出るたびに、関連する社内文書を洗い出して影響を分析する作業は、従来は人海戦術でした。

グローバル会議資料の英語翻訳 単なる翻訳ではなく、各国の規制や文化的コンテクストを考慮した翻訳が可能。これは汎用翻訳ツールでは無理です。

マニュアルやFAQの生成 新入社員研修から製造現場まで、あらゆる場面で必要な文書を効率的に作成。

「ノーコード」という配慮

特に感心したのは、コードが書けない社員でも使えるインターフェースを提供している点です。

製薬会社の社員の多くは、薬学、化学、生物学のバックグラウンドを持つ専門家。プログラミングは専門外です。しかし、AIの恩恵を受けるべきなのは、むしろこうした現場の専門家たちです。

ノーコードのインターフェースにより、「AIは技術者のもの」という壁を取り払い、真の意味での「社内民主化」を実現している。これは他社も見習うべき点です。

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汎用AIとの決定的な違い

ファイザーの取り組みで特に注目すべきは、**「社内特化のChatGPT的な存在」**を作り上げている点です。

社内文脈への対応

例えば、「承認申請」と言っても、それがFDAなのか、EMAなのか、PMDAなのかで求められる書類や手続きが全く違います。社内AIなら、そうした文脈を理解した上で適切な回答を提供できます。

情報漏洩リスクの回避

ChatGPTに社内の機密情報を入力するのは、どう考えてもリスクが高すぎます。しかし、AWS環境内で完結するBedrockなら、そのリスクを大幅に軽減できます。

社内文書との連携

過去の申請書類、社内規定、製品情報など、膨大な社内データと連携することで、より精度の高い回答が可能になります。

他社への波及効果

この動きは、間違いなく他社にも影響を与えるでしょう。

特に、同じく規制が厳しい業界(金融、医療機器、化学など)では、似たような取り組みが必要になるはずです。

また、外資系企業なら、グローバル本社との連携や多言語対応の必要性から、汎用AIでは限界があることを理解しているはず。

今後の展開予想

ファイザーの成功例を見た他社が、どのような戦略を取るか予想してみます:

  1. Microsoft Azure OpenAI Serviceを選択する企業
  2. Google Cloud Vertex AIで独自環境を構築する企業
  3. オンプレミスでの完全自社開発を選択する企業

どの選択肢にもメリット・デメリットがありますが、重要なのは**「自社の業務に最適化されたAI環境を構築する」**という方向性です。

日本企業への示唆

日本の製薬企業や外資系企業の日本法人にとっても、この動きは無視できません。

特に、日本独自の規制対応(PMDA申請、薬機法対応など)を考えると、海外本社のシステムをそのまま使うだけでは不十分。日本市場に特化したカスタマイズが必要になるでしょう。

ファイザーの生成AI戦略は、単なる「効率化ツール」の導入ではありません。業務そのものの質を向上させる戦略的な取り組みです。

「ChatGPTで十分」と考えている企業は、この事例を参考に、自社にとって本当に必要なAI環境とは何かを再考すべきでしょう。

次回は、医療機器企業でのAI活用について取り上げる予定です。GEヘルスケアやシーメンス・ヘルスィニアーズなど、興味深い事例が続々と出てきています。