皆さま、3連休いかがお過ごしですか。それにしても、昨日の連休直前は、なんだか忙しかった。みんな連休前に片付けたい、と、思うことが多かったんですかね。
まあ、自分はまったりしていても、世の中動いていますね。で、そんな中、毎年開催されている医学の賞がありまして、その話題です。
ラスカー賞
なんか、こういう、社会の貢献する偉いお金持ちとか、いるんですよね。アメリカには。フィランソロピストとか、いいますよね。ラスカーさんという方がいて、その方が作った財団ですよ。日本にも、こういう人、居たら良いのに。僕が行っていたアメリカの大学にも、フィランソロピストが寄付したお金で建った建物には、その人の名前がついていました。誰々センターとか、誰々図書館とか。今の日本は、そんな余裕ないですよね。それどころか、国から出る金をあてにする人ばかり。
おっと、また、政治色に傾きそうになった。
2025年のラスカー賞
2025年度アルバート・ラスカー基礎医学研究賞は、
タンパク質配列内の低複雑性ドメイン(LCD)の構造と機能を明らかにした2名の科学者を表彰するものです。大胆な想像力と独創的な実験により、
Dirk Görlich氏(マックス・プランク学際科学研究所、ゲッティンゲン)と
Steven L. McKnight氏(テキサス大学サウスウェスタン医療センター、ダラス)は、細胞内輸送と細胞組織の新しい原理を明らかにしました。教科書では、タンパク質はその構造の複雑さと化学的精巧さで注目され、これらの分子が特殊な仕事を遂行することを可能にする独自の3次元構造が強調されています。その多様な特性は、それぞれが特異な特性を付与するアミノ酸の配列に起因しています。この従来の見方では、20種類のアミノ酸すべてではなく、わずか数種類のアミノ酸で構成されるLCDは、重要な仕事をする能力がほとんどなく、ぶらぶらと動いていると思われていました。しかし、真核生物のタンパク質の約 15 ~ 20 % にはこのような領域が含まれており、Görlich と McKnight は、これらの「無秩序な」LCD ドメインが細胞内で融合して、多様な生理学的動作をサポートしていることを示しました。2025年度ラスカー・デバキー臨床医学研究賞は、
嚢胞性線維症(CF)の画期的な救命治療法の開発に貢献した3名の科学者を表彰するものです。
マイケル・J・ウェルシュ氏(アイオワ大学)は、この致死的な遺伝性疾患の根底にあるタンパク質が通常どのように機能し、患者にどのような異常が生じるのかを明らかにしました。これらの発見は、異常なタンパク質を修復できる低分子化合物を発見する可能性を切り開きました。
ヘスス(ティト)・ゴンザレス氏(元Vertex Pharmaceuticals)は、有望な化合物を化学ライブラリからスクリーニングするシステムを開発しました。
ポール・A・ネグレスク氏(Vertex Pharmaceuticals)は、CFプロジェクトを主導・推進し、最終的に3剤併用療法の開発に成功し、CFを管理可能な状態に改善しました。2025年ラスカー・コシュランド医学特別功労賞は、
生物医学科学における55年に及ぶ輝かしいキャリアを称え、ルーシー・シャピロ氏(スタンフォード大学医学部)を表彰するものです。シャピロ氏は、細菌が時間と空間において遺伝論理を調整し、2つの異なる娘細胞を生成する仕組みを発見しました。彼女はスタンフォード大学発生生物学部を設立し、自身の研究を導いてきたのと同じ独自のビジョンをもって、この学部を、世界トップクラスの教授陣による調査を導く独創的な疑問が湧き出る、卓越した組織へと成長させました。明晰で説得力のある講演者であるシャピロ氏は、生物兵器や新興感染症について米国の複数の政権に助言し、国家レベルで模範的なリーダーシップを発揮してきました。抗生物質耐性の増加を懸念した彼女は、2つのバイオテクノロジー企業を設立し、斬新なアプローチでヒト用の医薬品と農業害虫を駆除する薬剤を生み出しました。
要約
- 重症遺伝性疾患「嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis, CF)」の治療を大きく変えた研究に対して、2025年の Lasker–DeBakey Clinical Medical Research Award が授与された。 STAT+2Lasker Foundation+2
- 受賞者は、Michael J. Welsh(アイオワ大学)、Paul A. Negulescu(Vertex Pharmaceuticals)、Jesús “Tito” González(元Vertex所属) の3名。 STAT+1
- この研究で開発された三剤併用療法(triple‐drug combination)、代表的には Trikafta が、CF患者の寿命を大幅に延ばし、疾患を以前ほど致命的ではないものに変えつつある。 The Scientist+1
- Welsh の研究は、CFの原因となるタンパク質(CFTR)の働きと、変異がもたらす機能不全を明らかにすることから始まり、薬物でその異常を補正する(correctors)とチャネルの働きを促進する(potentiator)薬の組み合わせへと進展した。 Lasker Foundation+2The Scientist+2
- González は化学ライブラリから有望な化合物を高速にスクリーニングするシステムを確立、Negulescu は Vertex でこれら候補化合物を薬として育てるリーダーシップをとった。 Lasker Foundation+1
Vertex 社の会社概要
さてさて、Vertexに関連する人物が2名、受賞されておりますね。この会社も、一時期、日本にくるくる言ってましたが、もう、日本、見限られました?
- 正式名称:Vertex Pharmaceuticals Incorporated ウィキペディア+1
- 設立:1989年 ウィキペディア
- 本社:アメリカ・マサチューセッツ州ボストンにあり、その他にロンドンにも拠点 Vertex+1
- 社員数など:2024年時点で約6,100人の従業員 ウィキペディア
- 事業領域・ミッション:重篤な疾患を対象とし、「transformative medicines(変革をもたらす医薬)」の創出に注力。特に嚢胞性線維症(CF)をはじめ、希少疾患や重症遺伝疾患、炎症/自己免疫、神経疾患など。研究開発型バイオ医薬企業。 Vertex+2Bloomberg+2
- 主要な製品・貢献:CF治療薬として Trikafta(3剤併用療法)、その他 corrector や potentiator タイプの薬など。 Lasker Foundation+2The Scientist+2
Lasker–DeBakey Clinical Medical Research Awardのおさらい(くどい)
- 正式名称:Lasker‐DeBakey Clinical Medical Research Award STAT+1
- 内容:臨床医学・医療研究において、「病気や人々の暮らしを大きく改善する主要な進歩(major advance)」を行った研究者やチームに授与される。特に人々の生命や疾患管理に実質的な影響を与える業績が対象。 STAT+1
- 賞金:$250,000(米ドル) STAT
- 名声・位置づけ:アメリカで非常に権威がある医学・生物医学の賞の一つ。「アメリカのノーベル賞」と形容されることもある。 uihealthcare.org+1
受賞者の簡単なプロファイル
| 氏名 | 所属/主な役割 | 研究の主な貢献内容 |
|---|---|---|
| Michael J. Welsh | アイオワ大学(University of Iowa)の教授/研究者 Lasker Foundation+2uihealthcare.org+2 | CFTR タンパク質(CFの原因蛋白質)の正常動作と変異での機能不全の基礎を明らかに。corrector と potentiator の原理的発見。 Lasker Foundation+1 |
| Jesús (Tito) González | 元 Vertex Pharmaceuticals 所属のイオンチャネル生物学者 Lasker Foundation+1 | CFTR変異に対する薬物スクリーニング技術の構築。有望候補化合物を見つけるための高スループットな方法論を確立。 Lasker Foundation+1 |
| Paul A. Negulescu | Vertex Pharmaceuticals 所属(Senior Vice President等) STAT+2The Scientist+2 | CF プロジェクトの統括的役割。薬の発見・育成・臨床応用までをリード。三剤併用療法(Trikafta 等)を完成させた。 Lasker Foundation+1 |
今後の影響
- 患者予後の改善:この三剤併用療法により、CF患者の多くが生命予後が大幅に改善し、かつてよりは管理可能な病気へと変わりつつある。早期に治療開始した場合、通常寿命に近づく可能性も示唆されている。 The Scientist+2Lasker Foundation+2
- 薬開発のモデルになる:遺伝子‐分子レベルでの病因解明 → 化合物スクリーニング → corrector/potentiator の組み合わせ、といった流れは、他の遺伝性疾患や希少疾患の治療でも応用可能なモデルとなる。 Drug Discovery News
- 研究・診断体制の強化:CFTR遺伝子変異の種類や機能が明らかになることで、変異タイプごとの治療反応性(薬剤が効くかどうか)が予測しやすくなる。個別化医療(precision medicine)の進展。
- 規制・保険の課題:薬剤のコスト、保険適用、提供体制などが依然として課題。新薬が普及するには費用対効果やアクセスの公正性が鍵。
- グローバルへの普及:欧米では既に利用が進んでいるが、アジア・アフリカ・中南米など、診断体制・薬物流通・遺伝子検査のインフラが未整備の地域への導入が今後の焦点となる。
日本との関係
- 発症頻度が非常に低い:日本では嚢胞性線維症の発症率が非常に低く、例えば1990年代の調査では出生児 1 人あたり約 350,000 人~680,000 人という推定値が報告されている。 PubMed+1
- 遺伝的変異のスペクトルが異なる:日本人の CF 患者では、欧米で一般的な ΔF508 変異が少なく、希少な CFTR の変異が多いため、治療薬の反応性や適用可能性が異なる可能性がある。 PubMed+1
- 診断・登録体制の改善:日本にも CF の登録レジストリや疫学調査が存在し、近年、CFTR 変異の調査が進んでいる。診断が難しい症例や遺伝子検査、汗塩試験(sweat chloride test)の普及などが課題。 PubMed+1
- 治療薬の利用可能性:Trikafta などの CFTR 薬が日本でどの程度使われているか、アクセス可能かどうかは、公的保険適用や薬価制度、遺伝子変異タイプの適合性に依存する。欧米の報告ほど多くの患者が恩恵を受けているとは限らない。
- 将来的な可能性:CF患者自体は少ないが、CFTR遺伝子の変異の機能的影響研究を通じて、類似のイオンチャネル病や遺伝性肺疾患、膵疾患などへの応用や、診断精度の向上、薬剤適用の拡大が期待される。
おまけ
Vertexと日本の企業の規模比較
特段、なんの意味もないですが。
最新の時価総額比較(2025年9月時点)
| 企業 | 時価総額(おおよそ) |
|---|---|
| Vertex Pharmaceuticals | 約 US$101.15B Companies Market Cap+2tradingeconomics.com+2 |
| 中外製薬 (Chugai Pharmaceutical) | 約 US$74.7B Companies Market Cap |
| 武田薬品工業 (Takeda Pharmaceutical) | 約 US$47.7B Companies Market Cap |
| 第一三共 (Daiichi Sankyo) | 約 US$44.7B Companies Market Cap |
| アステラス製薬 (Astellas Pharma) | 約 US$20.5B Companies Market Cap |
| エーザイ (Eisai) | 日本円でのデータですが、エーザイの時価総額は 約 ¥1.46兆円。米ドル換算だと US$≈10-15B 程度(為替や情報ソースによって上下) Yahoo! ファイナンス+2finboard.net+2 |
売上、利益、開発費
| 企業 | 売上/収益 (最近) | 純利益または営業利益 (最近) | R&D 投資額/研究開発費 (最近) |
|---|---|---|---|
| Vertex Pharmaceuticals | 年間売上(2024): 約 US$11.75〜12.0B (Vertex Investors) | 四半期利益等は四半期ごとにばらつきあり、直近ではアナリスト予測を上回る調子 (Reuters) | 研究開発+SG&A 等の合わせての支出が約 US$5.5〜5.7B レベル (Vertex Investors) 単独の R&D 支出(本体)でも、2022年:約 US$2.54B (macrotrends.net) |
| Takeda Pharmaceutical | 日本最大手の一つ。最新では売上が約 US$30.5B 程度(日本企業内で上位) (bullfincher.io) | 利益は近年特許切れなどで変動が大きく、減益になった例もあり。構造改革中。 (Reuters) | R&D 投資は日本製薬企業の中でトップクラス。過去のデータで、Takeda の R&D 支出が日本企業の R&D 総額のかなりの割合を占める。たとえば 2020-21 年度の日本トップ10製薬の R&D のうち、Takeda は約 US$4.8B を使っていたというデータ。 (eolas-bio.com) |
| Daiichi Sankyo | 売上:FY2022で約 US$9.44B(¥1,278 億円) (ウィキペディア) | 利益は約 US$812 million(FY2022) (ウィキペディア) | R&D 投資では、同じく日本の上位に入っており、日本トップ10の R&D 投資額の中で Astellas や Takeda に続くレベル。具体額は数十億ドル規模。 (eolas-bio.com) |
| Eisai | 売上:2023 年度で約 ¥741.8B(日本円約 7,418 億円) (ウィキペディア) | 純利益:2023 年で約 ¥43.8B (ウィキペディア) | R&D支出:日本の大手製薬企業で中位。 “日本トップ10製薬の R&D 投資” において Eisai の名前も出ており、数十億ドル規模。具体データは公開されてるが、Takeda や Astellas のような非常に大きなものではない。 (eolas-bio.com) |
Vertex と聞いても、「あれ、どんな会社だっけ?」くらいに思う人も多いかもしれません。世界のトップ企業というわけではありませんが、時価総額や研究開発への投資規模では、日本の武田や第一三共より上なんです。
なぜここまで評価されているのか。その理由のひとつは、一点突破型の戦略。嚢胞性線維症という小さくても重要な領域に集中投資して、成果を出しているからです。
日本企業にとってのヒントもあります。
- 強みのある分野に集中する
- 投資家の期待を意識して資源を配分する
- 成果を示して信頼を積み重ねる
Vertex は「世界のトップではないけど、日本の大手を上回る」という例。自分の強みを活かして戦略的に動くことで、日本企業も差をつけるチャンスは十分にあるはずです。
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- 日程:2025年9月24日(水) 19:00~20:00
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