肥満治療薬の未来と製薬業界の安定市場

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

製薬業界は来週あたりからお休みに入る人がちらほら。
いや、ちらほらというか、どさどさ。そう、かなりの人数です。
もちろん、なかなかお休みを取れない方もいらっしゃるとは思いますが。

それにしても、有給休暇の取得難易度がこれほどまでに低い業界も、なかなか珍しいのではないでしょうか。
その中でもMR職の有給取得のハードルの低さといったら、海抜0メートルよりも低い。
いや、マリアナ海溝レベルかもしれません。
それだけ、相対的には恵まれた職種なのだと思います。

そんな年の瀬も押し迫った今日この頃ですが、
一昨日、12月18日にイーライ・リリーが新しい経口GLP-1の治験途中経過を発表しました。

背景治療としてWegovy(セマグルチド)またはZepbound(チルゼパチド)を72週間投与した後、
患者をorforglipronまたはプラセボ群に再ランダム化した試験とのことです。

https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lillys-orforglipron-helped-people-maintain-weight-loss-after

Wegovyから切り替えた患者では、1年後の平均体重増加は0.9kgにとどまり、
減量効果を「維持」した、という結果。

また、Zepboundから切り替えた患者でも、平均体重増加は5.0kg。
こちらもプラセボ群よりは良好な結果、とのことです。

……いや、
増えてますけどね、体重。

もちろん、この増加は微々たるものです。
「維持」と言われれば、まあ、言えなくもない。
この程度の増加で済むなら、週1回の注射を続けるより、
毎日飲める経口薬の方が圧倒的にラク、という判断になる人は相当多いでしょう。

で、結局のところ、
まあ、なんだかんだで、肥満の薬はまだまだ売れるんでしょうね。

オンコロジーも、免疫も、もちろん製薬業界にとっては超重要領域です。
ただ、それと並ぶレベルで、いや、ビジネス的にはそれ以上に、
肥満という領域がいかに巨大か、というのを改めて感じさせるニュースでもあります。

一方で、少し別のことも考えてしまいます。

欧米社会では、見た目や体型について言及することは、
基本的に「言わない方が良いこと」になっていますよね。
ルッキズム。
太っている、痩せている、なんて話題は言語道断。

日本でよくある、
「顔ちっさ!」
みたいな褒め言葉も、あちらでは完全アウトでしょう。

で、そういう社会を見ると、
「みんな、もう容姿なんて気にしていないのかな?」
と思ったりもします。

でも、たぶん、全然そんなことはない。
むしろ、全員がめちゃくちゃ気にしている。

全員が気にしているからこそ、
誰もそれを口に出さない。
言わない世界。

だからこそ、
肥満治療薬の治験結果が、これだけ注目されるのだろうな、とも思います。

言葉にはしない。
でも、行動とマーケットは、正直。

この12月18日のプレスリリースも、
今後、学会で正式に発表されるとのことです。

年末年始、体重計に乗るのが少し怖い季節ですが、
業界的には、なかなか示唆に富んだニュースだったな、と思っています。

市場の変化、という話

今回の経口GLP-1の話、
単に「注射が飲み薬になりました」という話では終わらない気がしています。

市場は、たぶん静かに、でも確実に変わります。

まず一つ目。
患者層が広がる。

注射に抵抗があって、
「効くのは分かっているけど、そこまでは…」
と様子見していた層が、確実に入ってくる。

これはもう、糖尿病領域で何度も見てきた流れですよね。
ペン型注射から経口薬へ。
治療の“心理的ハードル”が下がると、市場は一段階広がる。

次に、
治療が“特別なもの”ではなくなる。

今のGLP-1は、
・専門医
・肥満外来
・それなりに覚悟のある患者

という、やや選ばれた世界の話ですが、
経口薬になると、一気に日常側へ寄ってきます。

「ちょっと体重が気になる」
「健康診断の数値が気になってきた」

このあたりのグレーゾーンが、実は一番大きい。
市場としては、ここが本丸です。

そして三つ目。
競争の軸が変わる。

これまでは、
「どれだけ体重を落とせるか」
が主戦場でした。

でも、これからはたぶん、
・維持できるか
・続けられるか
・生活に溶け込むか

このあたりが勝負になります。

多少体重が増えた、減った、よりも、
“やめずに続いているかどうか”

今回の治験結果も、
「減らした」より「戻らなかった」という点が評価されているのは、
まさにこの流れを象徴している気がします。

結果として、
オンコロジーや免疫のような「尖った最先端領域」とは別の意味で、
肥満は製薬企業にとって極めて安定的で、長期的な市場になっていく。

派手さはない。
でも、人数が多く、期間が長い。

だから、
各社が本気になる。

たぶんこの先、
「肥満は一過性のブームでした」
とは、ならないでしょうね。

なんだかんだ言って、
この市場、まだ全然、途中です。

GLP1のMRの人員削減があったばっかりですが、これが出ればまた、人を増やすことになるかと思います。減ったり増えたり。ただ、リクルーターにとってはどちらのフェーズでもチャンスがあるということになりますね。なぜか。それは色々なのです。