皆様いかがお過ごしですか。
いやあ、中国のバイオの成長は、目覚ましいものがありますよね。今後中国バイオは、かなりくるかと思います。ていうか、もう、とっくに来てますよね。何を今さらジローって感じですよね。
てなわけで、ロシュが中国のバイオ企業Rona Therapeuticsと結んだ、肥満症薬のライセンス契約の話です。
「ロシュがまた中国と組みました」
というニュースが出ました。
ロシュはRona Therapeuticsと、開発中の肥満症薬候補について最大11億6000万ドルのライセンス契約を結んだと、Rona側が発表しています。Ronaは契約一時金として1億ドルを受け取り、最大10億6000万ドルのマイルストーンと、世界売上に応じた段階的ロイヤルティも受け取る権利があります。 wtvbamwtvbam
11億6000万ドルという数字は大きく見えます。ただ、中身は「最大で」という但し書き付きで、確実にもらえるのは1億ドル前後です。残りは開発や承認が順調に進んだ場合の話なので、「最大◯億ドル」という見出しは、一歩引いて読むくらいがちょうどいいです。
ロシュが肥満症市場でどういう立場にいるか
まず、整理します。
ロシュは、イーライリリーとノボ ノルディスクが支配する肥満症薬市場への参入を急いでいるとロイターは書いています。
2023年にはCarmot Therapeuticsを最大31億ドルで買収しています。ただ、道のりは平坦ではなく、最近も開発中だった肥満症薬候補のemugrobartが社内目標に届かず、開発を中止しました。権利は、ロシュが大株主である中外製薬に返還されています。 Roche strikes obesity drug licensing deal worth up to $1.16 billion with Chinese Rona Therapeutics +2
そこで効いてくるのが「中国から買う」という手です。BioPharma Diveの集計では、今回はロシュにとって8月末以降で5件目、2025年初め以降で10件目の中国企業との契約です。大手製薬の中では最多とのことです。 biopharmadive
中国のバイオ企業は、自国での権利は手元に残し、海外での権利をライセンスして、一時金やマイルストーン、ロイヤルティを得るというパターンが定番になっています。大手側から見ると、初期段階の資産を比較的安く拾えます。中国側から見ると、グローバル開発の資金と販路が手に入ります。お互いに都合がいい構造です。 KSL
今回の薬の特徴はここです。対象はALK7というタンパク質で、薬のタイプはRNA干渉(RNAi)です。ロシュはこの薬の完全な所有権を取得します。ALK7を狙う薬では、すでにAlnylam、Arrowhead、GSK、ノボが先行しており、ロシュは後から参戦する形です。GLP-1のように食欲を抑える薬ではなく、脂肪組織そのものに働きかけるアプローチです。BioPharma Diveは、体の深部につく「内臓脂肪」を減らす薬への賭けとして紹介しています。 Roche extends China deal streak with $1B pact for RNAi obesity drug +2
🕺 😃
期待できる点
- GLP-1一強の市場で、別のメカニズムの選択肢が増える。ALK7薬は、単独でも、GLP-1などのインクレチン系薬との併用でも使える可能性があるとされています。 fiercebiotech
- 体重の数字だけでなく、脂肪の「質」や「場所」に着目した治療に進める。
- 中国発の資産を活用すれば、開発のスピードとコストの両面で有利になりうる。
気になる点
- 臨床での実績がまだ見えにくい。Ronaの公開パイプラインには肥満症の前臨床プログラムが2つ載っていますが、ターゲットは非公開で、ALK7を狙うものは含まれていません。つまり、この薬がどこまで進んでいるのかは、公開情報からは読み取りにくいです。私が確認できた範囲では、臨床試験の段階の詳細は出ていません。 fiercebiotech
- 先行する競合が多く、「後発のALK7」としてどう差別化するのかが問われる。
- 中国発の薬を巡る規制や政治の風向きは、状況次第で変わりうる。
つまり、「患者さんにとっての選択肢が増える期待」と、「まだ早期の資産に大手が次々と賭けているだけではないか」という見方が、同時に成り立つ話です。
私見
ここからは私見です。3つ書きます。
1つ目は、1億ドルをどう見るか。 大手にとっては、有望そうなものを安い入場料で押さえておく「オプション」に近い金額だと思います。当たれば大きく、外れても傷は浅いです。ロシュが半年足らずで5件も中国と組んでいるのは、「1本に賭ける」のではなく「数を打つ」戦略に切り替えているように見えます。
2つ目は、先ほどのemugrobartです。 自社グループ(中外製薬)で見つけた薬が中止になり、その穴を中国発の資産で埋めにいっているようにも見えます。日本の製薬業界の目線で言うと、ここがいちばん複雑です。研究力のある日本発の薬が脱落し、中国発が選ばれていく流れは、日本のバイオにとっても他人事ではありません。
3つ目は、人の動きです。 契約が増えると、現場ではBD(事業開発)やアライアンス、中国語ができる臨床開発の人材が足りなくなっていきます。製薬業界に長く関わってきた立場から言うと、こういうニュースの先には、だいたい人材の動きが出てきます。数字で見えるのは契約金額ですが、その裏では「誰が動くのか」も変わっていきます。
注目したいのは次の3点です。
- ロシュが、ほかの中国発資産もさらに積み上げていくのか
- ALK7という新しい肥満症の標的で、最初の臨床データがいつ出てくるのか
- 同じく大手が中国と組む流れが、ノボやリリーにも広がるのか(ノボは9月30日にも、Jiangsu Hengruiから最大26億ドルで経口の肥満症薬の権利を取得しています。) KSL
ひとことでまとめると、
「ロシュは、肥満症薬の『次の一手』を、中国から数多く仕入れ始めた」
というニュースです。
最大11億6000万ドルという数字よりも、その背後にある「数を打つ」姿勢と、ALK7という新しい標的のほうが、今後の展開を占う手がかりになりそうです。
みなさんは、大手製薬が中国発の資産を積極的に取り込んでいく流れを、日本の製薬業界にとってチャンスと見ますか。それとも、少し危機感を持つべきだと思いますか。
参考ソース
- Reuters(2026/10/13)ロシュ、中国Rona Therapeuticsと最大11億6000万ドルの肥満症薬ライセンス契約
- BioPharma Dive(2026/10/13)Roche extends China deal streak with $1B pact for RNAi obesity drug
- Fierce Biotech(2026/10/13)Roche inks $1.2B deal with China’s Rona to enter emerging ALK7 obesity race
- STAT / Pharmalittle(emugrobart開発中止の件)、Reuters Factbox(中国ライセンス契約の一覧)
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