POCT 「臨床現場即時検査」 新しくて熱いマーケット
日本が超高齢化社会であること、医療費が国の予算を圧迫していること、医師、看護師などの医療従事者が大幅に不足していること。これらのことは言わずもがな、論ずるまでもありません。医療政策は待った無しなのです。2015年6月に出た政府の「骨太の方針改革」の中でも医療費抑制は待った無しの課題でした。甘利内閣府担当特命大臣は、医療、適正化も「成長の新エンジン」と意気込み、挑戦できる事柄は全部やるとして、2020年度のプライマリーバランス黒字化に向けて決意を示して、同日に成長戦略「日本再興戦略 改訂2015」も閣議決定したのです。こうしている間にも、60歳以上の人口はどんどん増え、疾病の発症人口がさらに高まっているのです。がん、リウマチ、アルツハイマー、肺炎、肝炎は60歳で発症率が上がり、人工透析に初めてかかる年齢も60歳から増えます。
今更ながら、敢えて言えば、もう医療費の抑制は待った無しということではなく、期限をとっくに過ぎてしまってさえいるのです。
そこで前述の骨太の方針なのですが、見ると中身の薄さに唖然とします。何故かといえばこれだけ事態がさしせまって何らかの施作を要しているにもかかわらず、内容が「ジェネリック医薬品の使用適正化」に終始しているのです。確かにジェネリックの普及は医療費の削減につながるのですが、なんだか20年以上変わっていませんよね。薬価も高すぎますね。
POCT 熱いマーケット
ジェネリックの普及もさることながら、それ以外の方法で医療費の削減に大きく寄与することがあると思います。例えば糖尿病で考えると、検査して糖尿病であることがわかり、運動療法と薬物治療をしていきますね。血糖値をモニタリングすることは今や通院しなくても血糖測定キットがだいぶ普及しています。おそらくしばらくの間は薬物治療になることになるのかと思いますが、自己測定キットがあれば、病院での検査は少ない回数で済みますよね。病院で採血しますと、保険点数が発生して医療費がかかりますが、このキットは、市販で買えるので医療費の抑制になりますね。これが実はPOCTと言われています。
POCTは医療費抑制だけでなく、適切な治療指針を決定するスピードを早めることなど、様々な利点があるのです。日本臨床検査自動化学会が定めたPOCTガイドラインによりますと、POCTは次のように定義されています。
POCTとは、被検者の傍らで医療従事者が行う検査であり、検査時間の短縮および被検者が検査を身近に感ずるという利点を活かし、迅速かつ適切な診療・看護・疾患の予防、健康増進等に寄与し、ひいては医療の質を、被験者のQOL(Quality of life)に資する検査である。
つまり、病院でも家庭でもその他の場所でも、簡単で身近な検査が可能ということなのです。POCTはPoint of care testing、臨床現場即時検査というふうに日本語では訳されて、被検者の近く、当初は病院内なら、ベッドサイドや診察室というのが一般的でしたが、次第に病院の外の薬局、自宅で行う場合も定義に入ってきました。ただこの日本語訳に関しては、天理よろづ相談所病院臨床病理部部長である松尾収二先生によると、あまり良い命名ではないようです。検査の種類ということよりも、医療の質や結果思考の考え方がもっと日本語に盛り込まれるべきだとしているのですが、なかなか旨い日本語がないようです。
POCTの種類ですが、奈良県臨床衛生検査技師会のホームページに天理よろず相談所病院の松尾先生が寄稿されていてその表によるとありとあらゆる検査項目があり驚きます。がんの腫瘍マーカーまでPOCTの項目に入っていますね。
アメリカではかなり普及しているようですが日本では今までなかなか普及してきませんでした。ところが、前述の政府の骨太方針では民間資本の導入をかなり意識しているようで、そうなると各検査メーカー、試薬メーカーもこの日本のマーケットを注目しないわけがないのです。いよいよ、日本にのPOCTマーケットが熱くなるのではないかと思っています。試薬メーカーは今までなんとなく医薬品の縁の下というイメージがあったのですが、考えてみれば分子標的のコンパニオンドラッグなどはそもそも試薬がなければ成り立たないマーケットで、いわば、試薬メーカーの存在なしには立ち行かなくなってきてはいたのです。いよいよ検査、試薬、この辺りのキーワードが日の目を見る時代に突入でしょうか。
各社を見てみると、東邦薬品などの大手ディーラーも動き出しています。メーカーでみると、GEの超音波画像診断装置、シーメンス社のPOCT装置「ACUSON Freestyle」、睡眠時無呼吸症候群で使用するC-PAPを展開しているフィリップスは、従来その診断には入院が必要だった検査を入院せずに、家庭で可能にした携帯型睡眠評価装置「ウォッチパット」を市場に導入しています。これらは大幅な医療費の削減とQOLの向上につながる画期的な製品ですね。
なかなか日本で普及しなかったPOCT。これはドラッグラグやデバイスラグにも似ていると思います。技術的にも、制度的にも、政治的にも、そして人材的にも課題があり、なおかつ患者そのもののメンタリティーなどの課題もあるのだろうと思います。自分でできると言われても、お医者さんにやってもらったほうが安心という患者さんもたくさんいるでしょう。ここは、さらなる普及を促進する対策が必要になるかと思います。そのためには教育や啓発が必要になるのかなと思います。最近、POCTの普及のためにPOCコーディネータという役割が生まれました。POCを患者、医師、コメディカルに正しく伝える仕事です。このような役割が行く行く資格化されるかもしれませんね。また、メーカー側もこのマーケットに本腰を入れ始めてきていて、優秀な人材をこのPOCT市場にアサインしようとする動きがあります。企業の積極かつ正しいマーケティング活動が進むと、医療機関、医療従事者、患者への浸透は早いと思います。医薬品で最近あまり旨味を感じなくなった企業はこの熱いマーケットに次々と参入してくるに違いありません。