あのBioNTechが687億円以上かけて買収した企業とは?

ヘルスケア企業はDXの遅れを取り戻すのに必死です。製薬会社は特に遅れているということです。なぜ、製薬会社はDXが遅れているのでしょうか。

業界にいれば、わかりますよね。なんとなくですけど。まず第一にIT人材不足が挙げられるかと思います。次に、そもそもヘルスケアとDXの親和性が低いのではないかと、個人的には考えます。

製薬業回のIT人材不足がなぜ起こるのか? 考えられる理由

製薬会社では世界的に圧倒的にIT人材が不足しています。それは今までに無かった概念だったからだと思います。製薬業界はデジタル化が難しいといわれていました。なぜなら、お互いに、やっていることがよくわからないからです。

例えばゼネコンや物流関係、サービス業などは親和性が高いかと思います。それは衣食住に関わることに近い業界なので、ある程度のことは普通の人でもなんとなくでもイメージできるからかと思います。

こと、ヘルスケアになると、サイエンス、生命科学が絡んできて、よくわからなくなるのです。

ヘルスケアとDXの親和性がなぜ低い

ヘルスケアのデータは個人情報保護の観点などが絡むので、デリケートです。て言うか、面倒です。できれば、余計なことはしたくないともうでしょう。問題を起こしたくないです。

データへのやたらなアクセスが控えられてきたことも理由の一つです。また、高い倫理観が求められる業界でもあり、それをDXで片付けるのは法整備など色々なハードルがあるからではないでしょうか?

それらを解決すべく、リアルワールドデータという、個々のデータを匿名化したようなデータがディベロップされて、5、6年前くらいから各社一斉に取り入れたのかと思います。

個人情報ではなく、一つのまとまったデータと解釈すれば、なんとなくマイルドになります。

RWDの流れは、人材業界に居れば、トレンドが見てとるようにわかるのです。活用に関するプロフェッショナルの採用が、数年前から活発化してきたからです。

同じ仕事内容でも、一昔前は「ITマネージャー」みたいな呼び名で人材の募集がありましたが、その後に「デジタルトランスフォーメンションマネージャー」に変わりました。ポジションのタイトルが変わっても、それは決して本質的ではありませんよね。

ヘルスケア企業や医療分野の例えば研究開発の部門のヘッドは、サイエンスやメディカルのエキスパートではありますが、突然DX人材の採用といっても、かなり難しいと思います。面接しても、わからないですよね。

面接官が評価できない

DX人材はヘルスケア企業においては、サイエンスを極めたヘッドにレポートすることになり、全く違った分野の人材の評価をしなければならず、困難でしかありません。

そこで、各社、DX部門を切り離して、CDTO. (Chief Digital Transformation Officer)のポジションを新設して、ヘッドもデジタル人材にしようとしています。ただ、これもCEOと開発の部長と、同列で話せるかというとそうでもなく、サイエンスのわかるCDTOを探すのは大変ですし、そもそも存在しません。

とはいえ、変革のスピードは早く、企業は待ったなしで、なんとなく、ITとサイエンスのわかりそうなCDTOをなんとか採用し、騙し騙しというか、手探り状態で運営してきたわけです。これは今後も、時間をかけて、人材を育成しなければならない分野かと思います。

DataOps

なんか、解決が難しい問題には、よくわからない新しいワードを作ると、それなりに解決できるのでは?と、錯覚します。

マッキンゼーによると、製薬会社、ヘルスケア企業はDataOpsに飛び込み、イノベーションを加速する必要があるらしいです。言うのは簡単、まさにコンサルっぽいですよね。そんな人がいないから、苦労しているのに。

DataOpsは、Data Operationsのことです。そんなの、普通にデータオペレーションって言えば良いのにと思いますよね。なんでそんな変な言葉を作りたがるのか、意味不明です。まるで、エビピラフのフだけ省略してエビピラっていうのと同じです。フだけ略すなよ!ということです。

で、そのDataOpsの取り組みは、専門チームを作ってそのチームが各部門が抱えるデータを抽出してまとめるみたいな感じになります。専門チームには、データエンジニアと、サイエンティストが必要でしょう、それだけでも、多分、たくさんの人材が必要です。ていうか、居ないです。全然、居ないですよ。居たら、かなり高給で雇うべきです。これって、Operationというよりも、むしろOptimizationではないだろうか?と個人的には思います。というのも、オペレーションだけしていても、活用にはならないですよね??と、感じるからです。

GSKはDataOpsしているみたいです。ここ見てください。(https://www.gsk.com/en-gb/careers/featured-careers/a-career-in-data/)ここで募集している職種、もう、すごいです。

データエンジニア
ソフトウェアエンジニア
データオプスエンジニア
プラットフォームエンジニア
ソフトウェア開発者
データアーキテクト
DevOpsエンジニア
AI/ML エンジニア
プロダクトオーナー
アジャイルファシリテーター
エンタープライズアーキテクト

このような専門家を集めてチームを作って、シナジーを産むのって、至難の業ではないでしょうか? それでも、変革には待ったなしなので、これはもう、挑戦するしかないのです。採用に関しては、面接をしても多分面接官もなんだかわからないので、みんな受かると思います。ということは、ちょっとDXを齧っている人なら、みんな受かりますよね。

どこかそこらへんのIT企業から、製薬会社に移れば、製薬会社基準の給与と福利厚生が得られますので、チャンスです。DX齧っている人は、今からでもヘルスケア業界の経験を積めば、これはキャリア戦略としてはかなり有用になるかと思います。多分、製薬会社で生え抜きの人材を自前で育てることは困難だからです。

ちなみに、上記のDevOps(a portmanteau of “development” and “operations”)から派生したのが、DataOpsです。なんか、これも、概念だけを言うのは本当に簡単なのです。

DX人材の採用を辞めて、全部買い取る。

BioNTechはDataOpsやってくれそうな会社を子会社化

BionTech、久々に聴いた方も多いのではないでしょうか? もうそろそろ終わりを告げる(終わったの?)コロナワクチンをファイザーを通じて売った会社です。mRNAのテクノロジーを持ったバイオベンチャーですよね。もうベンチャーと呼ぶには大きすぎますけど。で、BionTechはもちろん、Covidだけではないのです。種々のパイプラインがあり、今後もダイナミックに市場に出てくることになるであろう、活発な企業です。

BioNTech は、バイオテクノロジーの研究と製造能力を加速するために、英国の AI スタートアップInstaDeepを買収する約 6 億 8,000 万ドル相当の契約に合意しました。

https://aimagazine.com/articles/what-is-instadeep-the-ai-startup-acquired-by-biontech

BioNTechによる、InstaDeepの買収は、ヘルスケア企業のDX化の遅れを取り戻すこのトレンドにおいて、象徴的な出来事かと思います。つまり、ちまちまIT人材を苦労して採用するよりも、ITの会社を買ってしまったのですから。そしてこの買収は、ただのDataOpsから、MLOpsへの展開をも視野に入れたものなのです。

MLOps

MLOpsこれもまた略すなよ、と言う感じですが、ぶっちゃけマシーンラーニングオペレーションです。出ましたね、マシーンラーニング。つまり、AIですよね。て言うか、これも言うのは簡単ですけど。。まあ、もう、例えばMRの一次面接とか、AIでやったらどうでしょうかね?と、常々思っています。

薬が作られる、各々の段階は結構AIで済みそうなものもあるような気がします。BionTechは、DataOpsからMLopsまで、自前で採用するよりも、そう言う専門の企業を買収してしまったのです。

InstaDeepとは

InstaDeepは、まさに、意思決定をAIによって行うことを得意とした企業なのです。

2014 年に設立された InstaDeep は、ロンドンに本社を置き、パリ、チュニス、ラゴス、ドバイ、ケープタウンにオフィスを構える意思決定 AI システムのリーダーです。

InstaDeep は、マシン インテリジェンスの研究と具体的なビジネス展開の両方の専門知識を備えており、AI ファーストの世界でパートナーに競争上の優位性を提供します。DeepChainタンパク質設計プラットフォーム などの InstaDeep 製品は、GPU アクセラレーション コンピューティング、ディープ ラーニング、強化学習における広範なノウハウを活用して、さまざまな業界にわたる最も複雑な課題に取り組みます。

InstaDeep は、世界で最も有望な民間人工知能企業 100 社を紹介する CB Insights AI 100 ランキングに 2 年連続で選ばれました。

https://aimagazine.com/articles/what-is-instadeep-the-ai-startup-acquired-by-biontech

BioNTechのウェブに、なぜInstaDeepを買収したのか、書いてありました。

・BioNTech の治療プラットフォームと業務全体にわたって人工知能と機械学習テクノロジーを活用することで、次世代の免疫療法を大規模に発見、設計、開発する完全に統合された全社規模の機能の構築を可能にする買収
・BioNTech と InstaDeep の間の複数年にわたる戦略的協力に基づいて構築されており、これには 2020 年の AI イノベーション ラボの設立と数十の共同プロジェクトの完了が含まれます
・この買収により、約 240 人の高度なスキルを持つ専門家と、世界有数のグローバル技術ハブに拠点を置く人工知能、機械学習、データ サイエンスの分野の研究パートナーのグローバル ネットワークが追加されることが見込まれます。
・BioNTechは、2022年のBioNTechのシリーズB投資後、現金とBioNTech株式で約3億6,200万ポンドの前払い金を支払い、残りのInstaDeep株式の100%を取得する
・InstaDeepは閉鎖後、BioNTech企業としてロンドン本社から世界中で事業を展開する予定で、規制当局の承認を条件として2023年上半期に予定されている

https://shorturl.at/kJRZ7

この買収で、なんと、技術者240人を獲得したことになります。これはもう、ちまちま採用しているよりも、はるかに早いですよね。240人なんて、採用業務だけでも大変というか、ほぼ無理なので、これはかなり合理的です。

BioNTechがInstaDeepに支払ったお金は、3 億 6,200 万ポンドの現金と、BioNTechの株式の前払いらしいです。3 億 6,200 万ポンドの現金と言うのは、JPY67,186,476,000です。

いやあ、このくらいやならくちゃ、ダメかもしれないですね。採用よりも買収です。

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