早期退職者が直面する認知的不協和

50代早期退職MRの皆様。
人は「本来の自分の市場価値」を見誤ります。結果、「俺が年収600万で満足するわけがない!」となるのです。
それは、所謂ステータス・インコンシステンシー(Status Inconsistency)なのかなと思います。学歴的には「普通~Fラン」でも、年収的には「高給取り」という、ねじれ現象がそうさせます。
 
 社会的ステータス(学歴)と経済的ステータス(年収)が一致していない場合、人は「本来の自分の市場価値」を見誤ります。結果、「俺が年収600万で満足するわけがない!」となるのです。
でも実際は、それでも見つかればラッキーなのです。

まず、段階的に現象を当てはめてみます。

1. 否認(Denial) –【キューブラー・ロスの5段階モデル】

 まず、リストラや希望退職を受けた直後は「自分はまだ大丈夫」「すぐに次のメーカー正社員ポジションが見つかる」と思い込む傾向があります。これはキューブラー・ロスの「悲嘆の5段階モデル」(死別や大きな喪失を受け入れる過程)に当てはまります。

  • 第1段階:否認(Denial) → 「まだ自分はメーカー正社員でいける」
  • 第2段階:怒り(Anger) → 「なんで俺がリストラされるんだ! 会社はバカか?」
  • 第3段階:取引(Bargaining) → 「条件を少し下げれば、まだチャンスはあるかも…」
  • 第4段階:抑うつ(Depression) → 「もしかして、もう無理なのか?」
  • 第5段階:受容(Acceptance) → 「コントラクトMRで600万もらえるなら、まあ悪くないな…」

このプロセスを経て、半年後にようやく現実を受け入れます。


2. プライドの崩壊と認知的不協和(Cognitive Dissonance)

 50代のMRは「自分は優秀な営業マンだ」「総合商社並みの給料をもらうのは当然」と考えています。ところが、転職市場の現実は違う。
 
 この「自分の認識」と「現実」とのズレが生じると、人は**認知的不協和(Cognitive Dissonance)**を感じます。最初は現実を拒否しますが、時間が経つにつれて、「まあ、コントラクトMRでも悪くないか…」と考えを修正していきます。


3. プランBがあると人は動かない(The Ulysses Contract)

 半年間の間に、彼らは**「割増退職金」という安全ネットを持っています。この心理を説明するのが「ユリシーズ契約(The Ulysses Contract)」**です。
 
 これは、ギリシャ神話のユリシーズ(オデュッセウス)がセイレーンの誘惑に負けないよう、自らを船のマストに縛り付けた話に由来します。
 
 人は「選択肢がある」と動かないのです。例えば、半年間の貯金があると「本気で次を探さなくてもいいや」となります。逆に、貯金が尽きると突然動き出します。


4. ステータス・インコンシステンシー(Status Inconsistency)

 50代のMRは、学歴的には「普通~Fラン」でも、年収的には「高給取り」です。これは**「ステータス・インコンシステンシー(Status Inconsistency)」**と呼ばれる現象です。
 
 社会的ステータス(学歴)と経済的ステータス(年収)が一致していない場合、人は「本来の自分の市場価値」を見誤ります。結果、「俺が年収600万で満足するわけがない!」となるのです。


5. 失敗を認めたくない心理(Loss Aversion & Ego Protection)

 人は**「得る喜び」より「失う苦しみ」の方が強く感じる**(損失回避バイアス)ため、年収600万の仕事を「ラッキー」と考えるのは難しいのです。
 
 また、「自分は成功者だったのに、転落した」と認めることは自己防衛メカニズムが働いて難しくなります。半年の間、過去の栄光にすがり、現実を直視しないのはこのせいです。


半年の間に起こる心理プロセス

  1. 否認(自分はまだメーカー正社員でいける)
  2. 怒り(リストラなんて不当だ!)
  3. 交渉(多少条件を下げれば正社員いけるはず…)
  4. 抑うつ(なんだ、俺ってもうダメなのか…)
  5. 受容(コントラクトMRで600万なら、まあいいか…)

50代MRの心理学:なぜ現実を受け入れられないのか?

製薬業界で長年MRとして活躍してきた50代の方々が、リストラや早期退職の波を受けて転職活動を始めたとき、こんな言葉をよく聞きます。

「正社員じゃないと嫌だ」
「年収は1000万円くらいまでは下げてもいいよ」
「転居はしないけど、できれば地元の大手で」

でも、現実は…

  • 契約社員(コントラクトMR)
  • 1年更新
  • 年収600万円
  • 担当先は開業医中心

これが “ラッキーなケース” なんです。一般社会の中高年の再就職事情を見れば、警備員、介護職など年収300万円未満が多い中で、です。

しかし、こうした現実を受け入れられない人が多く、こちらが条件を伝えると、音信不通になることも珍しくありません。

その背景には、いくつかの心理的バイアスが影響しています。


📉 なぜ「1000万円」が受け入れられないのか?心理学的に解説

ていうかまあ、現実的にはCSOでは600万円なので、到底受け入れられなくなるのです。

① 参照点依存性(Reference Dependence)

人は「絶対的な金額」ではなく「これまでの自分との比較」で物事を判断します。年収1500万円が基準になっている人にとって、1000万円は “損失” に感じられるのです。

② 損失回避(Loss Aversion)

500万円の減収は、1000万円の価値より大きな痛みに感じます。人間は “得” より “損” に敏感。年収が下がる=価値が下がる、という誤解も生まれやすいです。

③ 恒常性バイアス(Status Quo Bias)

長年1500万円をもらってきた状態を「当然」と感じ、それが崩れることを極端に恐れます。そのため、新しい条件を冷静に判断できなくなります。

④ 社会的比較理論(Social Comparison Theory)

MR業界の中で「1500万円は普通」という比較の世界で生きてきたため、世間(平均年収480万円)とのギャップを認識できません。

⑤ 認知的不協和(Cognitive Dissonance)

「自分は優秀で、努力してきた」という自己イメージと、「年収が下がる」という現実が矛盾します。そのストレスを避けるために、現実を否定しがちになります。


🌿 発想の転換で見える景色

私は候補者にこう言うようにしています:

「家に居ないで、開業医を回って、季節を感じて、美味しいランチを食べて、エクササイズにもなる。そんな生活で600万円もらえるって、実はめちゃくちゃ幸せじゃないですか?」

転職活動の本質は、過去の自分と比較することではなく、「今の自分にとっての最適」を見つけることです。

そしてその “最適” は、意外と地味で、質素で、でも心地よいものだったりします。


50代MRの方々に伝えたいのは、「いま与えられた選択肢の中で、もっとも快適な生き方を見つける」ことが、これからのキャリアにおける最も重要なテーマです。

半年後、現実に気づいたとき、「あのときあの話をちゃんと聞いておけばよかった」と思わなくて済むように、ぜひこの視点を持ってみてください。