ニッチを選んだのは良いが
メジャー製薬企業にとって、ニッチ製薬企業の買収は生き残るためになくてはならないM&Aモデルになっています。
武田 ⇨ シャイアー
サノフィ ⇨ ジェンザイム、バイオベラティブ
アッヴィ ⇨ アラガン
BMS ⇨ セルジーン
そもそもニッチなマーケットをターゲットにしている企業は、生き残るために組織変革し、従来型の製薬企業のポートフォリオとは違うビジネスモデルを目指してきた背景があります。
ニッチスペシャリストの特徴的なところはたくさんありますが、例えばこんなところでしょうか。
・だいたい少人数
・給料は業界標準よりも高く
・働き方はフレキシブル
・選ばれた人が採用されている
・1つの疾患や1つの領域だけに特化している
こうして勝ち残ってきたニッチスペシャリスト。少人数なので、採用には重点を置き、ハードルを高くして、業界で評判の良い人や、精鋭を採用しようとする傾向にあります。
少人数なので、一人一人の責任範囲が広い上に重いので、1人のインパクトが大きいことも特徴です。高めの給与は、離職によるインパクト喪失を防ぐための施作とも言えます。
フレキシブルな働き方も、リテンションを高める上では重要です。いちいち細かい社内ルールを敢えて作らない企業が多いです。行動規範は個人にある程度任せられ、また、善処できる個人が集っています。
疾病領域は特化していて、ほぼ1領域の企業も多いです。
こうして、ニッチスペシャリストは、業界の中で生き残ってきました。
一方、メジャー企業は多すぎるポートフォリオの見直しを常に求められ、
既存の領域の特許が切れそうになったら、製品・人員もろとも切り捨て、乗り遅れたトレンドを取り戻すために、ニッチを買収しているように見えます。
人員に関しては、常にリストラしながら常に中途と新卒を採用しているイメージです。
メジャーがニッチを買収するのは、生き残りをかけての戦略と言えるでしょうが、ニッチに居た人材を考えてみると、
・自由に働いている
・給与は高い
・領域に特化してきた
・選ばれた人材
・少数
でしたよね。
今不足しているニッチスペシャリスト
つまり、敢えて少数精鋭で、選ばれて自由に働くことを好んでニッチスペシャリストの門を叩いた人々ですよね。
そういう人材がメジャーに取り込まれるとわかったら、どうなりますか。間違いなく、そこからの脱出を考えるでしょう。
ところが、今この瞬間のマーケットを見てみると、そういう人材を受け入れてくれそうなニッチスペシャリストが不足しています。
どんなに精鋭だろうと、生活もありますし、一旦はメジャーに取り込まれて、そこで「部門」として今まで通りに仕事をするでしょうが、ニッチスペシャリストの環境の良さが爆速で激減することは、火よりも明らか。。。。。。
メジャーによるニッチの買収は、会社の生き残りには良いけど、もともとメジャーでぬくぬくするのが好きだった人々は退職に追い込まれ、もともとバリバリ仕事するのが好きでニッチを選んだ人々のやりがいを削いでいます。
今、求められているのは、強い、新たなニッチスペシャリストが、複数、爆速で誕生することではないでしょうか。
市場は変化して、専門性も変化しています。
プライマリー、オンコロジーという括りも今ではオンコロジーの中でのオーファン、オンコロジーの中での専門性に変わってきていて、今後もオンコロジー領域は開発品目も多くて患者さんにとってはますます希望の持てる世の中になりつつはあるものの、オンコロジー、プライマリーという括りそのものが、化石化しつつあります。オンコロジー領域を経験すればなんとかなるというのは、もうビンテージです。
次のニッチ
次、というかもうスタートしているこれからのマーケットは、だいたい下記の通りかもしれませんが、もうこの瞬間にも、まるで生き物のように変化している可能性はあります。
マーケットは、まさにフリーラジカル。
・製薬とデジタル、AI、テクノロジー
IT企業がますます製薬に参入してきていますよね。NECとか、楽天とか。各IT企業にはヘルスケア部門が活発です。ただし泣き所は、製薬業界出身でもなかなかこれらのジョブディスクリプションにマッチしないことです。製薬企業で働くということは、ある意味、マニアックでガラパゴス化していくと言う覚悟を決めなければならないかと思います。業界の文化というのもあるかと思いますよ。例えば、楽天メディカルの人なら、主任教授に向かって、「弁当ありません」「小学寄付しません」「タクシー券ありません」とか平気で言えそうですよね。気のせいか?
・遺伝子
急速に発達した遺伝子治療技術は、今まで長年にわたる、まさに「unmet medical needs」に、爆速に、ダイレクトに治療法を提供していますよね。特に難病系に強く無いですか。進行して蝕んでいくような病気、半ば諦めかけていた治療法のない持病とかに次々ソルーションを提供していますよね。アルツハイマー、パーキンそ、筋萎縮性側索硬化症、脳卒中などなど、特にCNS領域に画期的な成果を出しつつあるような気がします。何年も前になってしまいますが、MR時代に先生と話して、オンコロジーの先生は、実際に抗がん剤を使って患者さんが治ることも多くて、医師としてのやりがいを感じることも多いそうです。それにひきかえCNSの先生たちは、結構シンドイ思いをしていらっしゃる方が多いと聞いたことがあります。CNSの先生たちにやりがいをもたらし、そしてもちろん患者さんに朗報という意味では、本当に夢のある領域ですよね。
・免疫
免疫はもはや言わずもがなです。免疫領域を担当することは、製薬企業のスペシャリストのキャリア形成にも有益です。オンコロジーもいくつかの品目が出ていて、まさに開発中のパイプラインもいくつかあります。オンコロジーだけでなく、今まで対処療法が主流だった疾患にも、免疫領域の進歩で根幹からアプローチをできるようになっていますよね。パーキンソンにも、ロッシュが良いパイプを持っていますね。
・予防
高すぎる薬価問題、破綻しそうな医療費など、特に日本のような国民皆保険を誇ってきた国の根幹のシステムが崩壊しそうになっています。昔の日本は、高血圧や糖尿病、高脂血症の薬がたくさん売れて、まあ、メタボはそれなりに企業が稼げるマーケットでした。保険財源が潤沢にあれば、メタボのマーケットほど企業が潤うものはないですよね。ところが年金は消えて、保険は崩壊しそう、若者も貧困に苦しみ、生活保護の不正受給は増えて、年金開始年齢は引き上げられ、雇用は不安定になってきた今、もう企業がメタボで儲けることは無理ゲーです。その分、予防に力を入れなければならないのですが、そこまでこのマーケットが活気付いていないような気がします。なぜか、あまり美味しいマーケットじゃないですよね、医療用医薬品に比べれば。ただし、個人個人としては、予防の意識はしなければならないと思います。でもそれができるなら苦労しませんよね。
まあ、今後、このような、デジタル、テクノロジー、AI、遺伝子、免疫、予防などのテーマで、強いニッチスペシャリストが誕生したら、秒速で優れた人材を獲得できるかと思います。
誰か、お金持ちの人、ニッチな会社を作ってください。
ウォーレン・バフェットさん、ビル・ゲイツさん、ジェフ・ペソスさん、このブログ読んだら、そういう会社すぐに作ってください。シャイアートか、セルジーンみたいな会社で、遺伝子とか免疫とか、AIとかをやる会社を、3つか4つ作ってくれたら、だいぶ潤うのですが。
・・・・・・・・無いわ。