皆さまいかがお過ごしでしょうか。
日本はいいですよね。秋になれば、ビールの秋バージョンみたいな製品が続々登場して、楽しいです。日本は特別な国です。
でもまあ、だんだんおっさんになると、飲み過ぎも結構辛いです。肝臓腎臓大丈夫かな、みたいなことが気になったりして。嫌ですね。
で、そんな中、ブタの腎臓を移植して半年間経過している人が話題になっています。このブログでも以前にスレイマンさんという方の記事を載せております。
スレイマンさんは、残念ながら拒否反応が出ちゃいまして、お亡くなりになったとのことですが、今回は、別の方です。スレイマンさんの時よりも、長く、安定しています。
🧬 豚腎移植の臨床進展 — Mass General Hospitalから始まる「臓器不足解消」への挑戦
腎移植は慢性腎不全患者にとって最後の希望ですが、移植待機リストは世界的に長期化しています。そんな中、マサチューセッツ総合病院(Mass General Hospital)が実施した遺伝子改変豚腎臓移植は、医学史上画期的な臨床実験として注目されています。
🏥 手術例と患者経過
初回手術
- 患者: Rick Slayman氏(62歳)
- 移植日: 2024年3月16日
- 使用臓器: eGenesis製 遺伝子改変豚腎
- 編集内容: ヒト糖抗原除去、7つのヒト遺伝子導入、PERV(内在性豚レトロウイルス)不活化
- 結果: 腎機能は即座に回復。残念ながら術後約2か月で心疾患により死亡(移植臓器とは無関係と報告)
2例目手術
- 患者: Tim Andrews氏(67歳)
- 移植日: 2025年1月25日
- 経過: 術後6か月以上が経過し、透析から離脱。腎機能は安定しており、日常生活も可能
- 注目点: 移植腎が中長期的に機能することが初めて確認され、今後の臨床試験の重要な指標に
https://www.cnn.com/2025/05/14/health/xenotransplant-pig-kidney-patient
Tim Andrewsさんのストーリー
背景と移植前の状況
- ティム・アンドリュースさん(66歳、ニューハンプシャー州コンコード出身)は、末期腎不全により2年以上透析を受けていました。加えて心臓発作を経験するなど、移植待機中も健康状態は厳しく、リスクの高い状況でした。血液型はO型であることから、適合するドナー腎を待つ期間が平均よりも遥かに長くなる可能性がありました Massachusetts General HospitalAP NewsTIME。
移植への道のり
- 彼は体力づくりのためにフィジカルセラピーを重ね、退院時には約30ポンド(約13.6kg)減量し、かなり良好な体調になりました。これにより、Mass General Hospital(MGH)の試験に適格と判断されました AP NewsTIMEMassachusetts General Hospital。
- 移植前には、NYUで受けた女性患者(Towana Looney)とも連絡を取り、「強くあれ」という助言を得ながら心の準備を整えていました AP NewsWBUR。
手術と術後の経過
- 移植手術は2025年1月25日に行われ、手術時間は約2.5時間でした。移植された遺伝子改変豚の腎臓は、すぐに機能を開始し、尿を生成しました Massachusetts General HospitalWBUR。
- 術後1週間ほどで退院。その際の退院時には、倦怠感が一気に消え「新しい人生を得た」と感じたという本人のコメントがあります Massachusetts General HospitalTIME。
- 現在、7か月以上にわたり透析から完全に離脱し、安定した腎機能を維持していることが最新記録として報告されています AP News。
その後の活動と象徴的瞬間
- 2025年6月16日には、ボストンのフェンウェイ・パークで開催された試合で、ティム・アンドリュースさんは「始球式」を務めました。このイベントは、移植後137日目という節目を祝う象徴的な場となりました Massachusetts General Hospital Giving。
専門的ポイントまとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 患者背景 | 末期腎不全、2年以上透析、O型血で移植待ちが長期化の傾向あり |
| 術前準備 | フィジカルセラピーによる体調改善、NYU患者との連絡による精神的準備 |
| 手術内容 | 2025年1月25日、遺伝子改変豚腎移植(CRISPR編集) |
| 術後経過 | 腎機能即時回復、術後1週間で退院、「新しい人生」と表現される改善 |
| 現況 | 7か月以上透析不要、安定した腎機能維持中(最長記録) |
| 象徴的瞬間 | フェンウェイ・パークで始球式—移植成功の社会的象徴 |
👨⚕️ 執刀チーム
- Leonardo V. Riella, MD, PhD — 腎移植医療責任者
- Tatsuo Kawai, MD, PhD — 免疫寛容・移植寛容研究の指導者
- Nahel Elias, MD — 移植外科インターン部門責任者
彼らのチームは、臨床試験設計・免疫抑制プロトコル策定・術後管理の全てを統括しています。
https://researchers.mgh.harvard.edu/profile/1129374/Tatsuo-Kawai
Tatsuo Kawai, MD, PhD — プロフェッショナルプロフィール
学術的役職・役割:
- ハーバード医科大学 教授(Professor of Surgery, Harvard Medical School)
- マサチューセッツ総合病院における A. Benedict Cosimi Chair in Transplant Surgery 保有者
- Legorreta Center for Clinical Transplantation Tolerance(臨床移植寛容センター)の初代ディレクターresearchers.mgh.harvard.eduMassachusetts General Hospital
経歴・研究業績:
- 1991年以降、サルを用いた前臨床研究で混合キメラ(mixed chimerism)による腎移植寛容誘導モデルを確立。1995年にこのモデルを報告researchers.mgh.harvard.eduast.digitellinc.com。
- この手法は、HLA非一致腎移植における免疫寛容の臨床試験へと発展し、2008年および2013年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載されましたresearchers.mgh.harvard.edu。
- この業績により、2009年にはMGHのMartin Research Prizeを、2010年にはTransplantation SocietyからNew Key Opinion Leader Awardを受賞doctors.massgeneralbrigham.org。
最近の成果:
- eGenesisとの共同研究により、遺伝子改変された豚腎を用いたキメラ実験で、非ヒト霊長類において2年以上の生着成功を達成(Nature誌に掲載)researchers.mgh.harvard.edu2024 World Medical Innovation Forum。
- 2024年3月には、69カ所のゲノム編集を施した豚腎を末期腎不全患者に初めて移植(世界初の生体対象)し、移植医療の歴史的節目となった手術を成功させましたresearchers.mgh.harvard.edunds.ox.ac.uk2024 World Medical Innovation Forum。
要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所属・役職 | ハーバード医科大学教授、MGH移植外科A. B. Cosimiチェア、移植寛容センター長 |
| 専門領域 | 混合キメラによる腎移植免疫寛容導入、HLA非一致腎移植、免疫抑制軽減プロトコル |
| 重要功績 | 初の臨床免疫寛容達成(2008/2013年論文)、pig-to-human腎移植の成功(2024年) |
| 受賞歴 | MGH Martin Research Prize(2009)、Transplantation Society Key Opinion Leader Award(2010) |
🔬 移植腎の技術的背景 — eGenesis
eGenesisは、米ケンブリッジを拠点にするバイオテクノロジー企業で、以下の戦略でヒト移植に適した豚臓器を開発しています。
- 多層遺伝子編集(EGEN™ Platform)
- ヒト糖抗原除去
- 7つのヒトタンパク質導入(免疫反応抑制)
- 内在性豚レトロウイルス不活化
- 臨床安全性試験
- FDAによる治験許可済み
- 現在30名以上の患者参加予定
- 資金調達・IPO
- 2024年9月:1億9,100万ドル調達
- IPOに向けた準備も進行中、将来的な大規模展開を視野に

🚀 今後の臨床・研究展望
- 腎臓以外の臓器移植: 肝臓、心臓、膵臓などへ展開
- 免疫寛容研究: 移植拒絶反応の長期的抑制
- 安全性モニタリング: PERV感染リスクの継続的評価
- 拡大臨床試験: 多施設共同試験で30名以上を対象に移植成功率・長期機能を検証
💡 医療界へのインパクト
- 移植待機リストの短縮
- 慢性腎不全患者への新たな救済策
- 臨床・研究の境界を超えた再生医療の実用化
Mass General Hospitalでの臨床試験は、単なる“動物臓器の移植”を超え、臓器移植のパラダイムシフトを示すものです。
<参考> 資料からコピーしたので、せっかくだから載せておきます。
混合キメラ(mixed chimerism)による寛容誘導 — 臨床プロトコルの骨格と実践ポイント
概要(要点)
混合キメラ法は、ドナー造血幹細胞(骨髄)を受容体に移植して「一部ドナー由来の造血系」を共存させることで、免疫系を“教育”しドナー抗原に対して寛容を誘導する戦略です。臨床ではドナー腎移植と同時または移植直後にドナー骨髄(あるいは造血幹細胞)を与える「combined kidney and bone marrow transplantation(CKBMT)」を用います。成功例では一部の患者で長期にわたり維持免疫薬の中止が可能になっています(=真の耐性)。PubMed+1
代表的な臨床的“準備(conditioning)”レジメンの要素
(Kawaiらの非骨髄破壊的/非全髄抑制型プロトコルを中心に要約)
- 非ミエロアブレーティブ(非全身破壊)な前処置
- 高用量放射/大量化学療法を避け、患者のリスクを抑えつつ一時的に免疫的“隙”をつくる。Kawaiの臨床系では低用量の化学療法(例:シクロホスファミド)や胸腺照射などの組み合わせが使われます。PubMed
- 強力なT細胞枯渇(T-cell depletion)
- 抗体療法(抗CD2、抗CD3、抗胸腺細胞グロブリン[ATG]など)で受容体のT細胞を枯渇させ、ドナー骨髄導入を受け入れやすくする。臨床では一連のT細胞除去が重要な要素。PubMed
- ドナー骨髄(又は造血幹細胞)の投与
- 腎移植と同一操作でドナー骨髄を注入(同種ドナーが利用可能な場合)。注入後に一過性または持続的な混合(ドナー由来)キメラが成立する。PubMed
- 短期的・漸減的な免疫抑制
- 混合キメラが成立するまでの短期期間は、標準的な免疫抑制薬(ステロイド、カルシニューリン阻害薬 など)や追加の抗体療法で橋渡しし、その後状態に応じて減量・中止を試みる。成功例では9–14か月で維持免疫薬を中止できた症例が報告されています(ただし合併症リスクは増す)。PubMed
臨床でのメリットとリスク
- メリット:長期的なドナー特異的免疫寛容→維持免疫薬の中止、薬剤性毒性(感染症・腎毒性等)の軽減、移植腎の長期生着向上。PubMed
- リスク:前処置に伴う合併症(感染、血液毒性、GVHDのリスクが理論上存在)、初期の移植失敗・血管免疫反応など。これらは従来の免疫抑制単独戦略よりも早期合併症が増える傾向が報告されています。PubMed
豚→人(xenotransplantation)における免疫抑制戦略 — 現状と実践
背景:なぜ“従来の免疫抑制”だけでは足りないのか
豚→ヒトの移植では、超急性拒絶(hyperacute rejection)、血栓形成、強い自然抗体反応、補体系の活性化、細胞性拒絶など、ヒト同士移植よりも多重の免疫/血液学的障壁が存在します。これを克服するために (1)供給側の遺伝子改変(抗原除去・ヒト遺伝子挿入・PERV不活化) と (2)受容体の免疫抑制戦略 を組み合わせるのが現行のアプローチです。egenesisbio.comnejm.org
供給側(eGenesisの編集)に基づく戦術
- eGenesisの臓器は**“3KO” (主要グリカン抗原のノックアウト) + 複数のヒトトランスジーン導入 + PERV不活化**のような多層編集を受けています(報告では69箇所の編集など)。これにより超急性拒絶や補体活性化、凝固系の不整合を低減しています。egenesisbio.com+1
受容体側の免疫抑制(実臨床の主要要素)
Mass Generalらの最近の臨床報告(pig→human)では、以下のような“多剤併用かつターゲット化”された戦略が取られています。NEJMの報告や病院発表に基づく要旨は次の通りです。nejm.orgMassachusetts General Hospital
- 強力な誘導療法(induction)
- 術中〜術直後にT細胞枯渇系の抗体(例:抗胸腺細胞グロブリン[ATG]や特異的なT細胞標的抗体)を投与して免疫反応の初期フェーズを制御。nejm.orgMassachusetts General Hospital
- 共刺激阻害(costimulation blockade)
- 抗CD40抗体(あるいは歴史的には抗CD154)が、T細胞活性化に必要な2番目シグナルを遮断し、拒絶反応を抑える。xenoではこのアプローチが特に期待されており、多くの研究・治験で採用されています。nejm.org
- 補体・凝固系の制御
- 補体阻害剤や凝固制御を行う(供給側の遺伝子改変と併用して血栓傾向を低下)。eGenesisの遺伝子改変はこの点もターゲットにしている。egenesisbio.com
- 維持免疫(maintenance)
- カルシニューリン阻害薬(タクロリムス等)、抗増殖薬(MMF等)や低用量ステロイドの併用。臨床では状況に応じて短期から中期にかけて調整。nejm.org
- 監視と早期介入
- 術後はウイルス(特にPERV等)の監視、免疫機能・ドナー特異的抗体(DSA)の定期チェック、腎機能・凝固指標の頻回モニタリングが必須。nejm.orgegenesisbio.com
臨床で報告されている注目点(Mass Generalの症例から)
- 手術直後に移植腎が即時に機能(尿生成)した例が報告されている点は、供給側編集と周術期免疫管理が効果を示している証拠と考えられる。Massachusetts General Hospitalnejm.org
- 長期的成功(数か月〜)が確認されれば、免疫抑制の最適化(例:より低用量の維持療法やコストシミュレーション阻害の継続)につながる可能性がある。nejm.org
臨床試験化に向けた要点(安全性評価・エンドポイント)
- 安全性(Primary):感染症(特にPERVなどの潜在的ウイルス)、術後早期の血栓合併症、免疫抑制に伴う重篤な感染・腫瘍化の有無。egenesisbio.comAmerican Kidney Fund
- 有効性(Secondary):透析離脱の割合、移植腎のGFR推移、移植腎の生着(組織学的スコア)、患者生存。nejm.org
- 免疫学的評価:ドナー特異的抗体(DSA)、混合キメラの割合(必要なら)、T/NK細胞プロファイルの変化。PubMed
現時点での限界と臨床実用化に残る課題
- 長期安全性データの不足:数年単位での生着と感染監視データがまだ限定的。nejm.org
- 免疫抑制の最適化:xeno特有の免疫機序に対する最小限かつ十分な薬剤組合せは未確立。nejm.orgPubMed
- スケールと倫理/規制:供給側(動物飼育・遺伝子編集)の品質管理、倫理的合意、FDA等の規制枠組み整備が必須。American Kidney Fund
まとめ(臨床者向けの短い結論)
- 混合キメラ法は「耐性獲得」という明確な臨床的メリットを持つ一方、初期合併症リスクが相対的に高い。適応患者の選定と厳重な周術期管理が鍵。PubMed
- Pig→humanの最近の臨床報告は、供給側の高度な遺伝子改変(例:3KO+ヒト遺伝子+PERV不活化)と周術期の多剤併用免疫戦略 を組み合わせることで短期〜中期の生着が得られることを示し始めている。長期データの蓄積が今後の最大の焦点。egenesisbio.comnejm.org
参考(主要ソース)
Mass General Hospital プレスリリース(2例目報告・手術概要)。Massachusetts General Hospital
Kawai T. et al., HLA-Mismatched Renal Transplantation without Maintenance Immunosuppression (NEJM 2008) — mixed chimerism 臨床試験の原著報告/コンセプト。nejm.org
Kawai T., Sachs DH., Tolerance induction: hematopoietic chimerism (Curr Opin Organ Transplant. 2013).PubMed
Xenotransplantation of a Porcine Kidney for End-Stage… (NEJM 2025) — Mass General のpig→human移植レポート(遺伝子編集内容・術後経過・免疫管理の臨床データ)。nejm.org
eGenesis プレスおよび学会発表(69箇所の遺伝子編集等、前臨床データ)。egenesisbio.com+1
ということで、これは劇的に普及する可能性があると思っております。


コメントを投稿するにはログインしてください。