日本から新薬を出せるだろうか

14日の日経新聞に製薬協会長で大日本住友製薬社長のインタビュー記事が載っています。見出しは「新薬出せねば行き詰まり」というなんとも悲壮感さえ感じる言葉です。さらに響きも4−4−5という、字余り加減で語呂もよろしくないです。サブタイトルとして「後発薬台頭、製薬各社にどう影響」という見出しです。このインタビューの趣旨は、加速する後発医薬品の普及に乗じて医療費削減の折、厚生労働省が打ち出した方針をうけて製薬メーカー側からの意見を聞くといった内容です。厚生労働省が高らかに打ち出した施作は後発医薬品の数量シェアを現状の50%強から80%以上に高めるというものです。で、それについてどう思うか?的な記事です。

増えすぎた医療費抑制には後発品のさらなる普及は、厚労相としては待った無しの命題でしょう。ここのところ自民党行革推進本部は「ジェネリックが高すぎる。」ということで、どうやら次回の衆院選の公約として安価なジェネリック医薬品の処方をすべての処方箋に記載するというような内容を盛り込むとか。

さて日経新聞のインタビュー記事に戻りますが、追い詰められている感のある見出しの文字とは対照的に、製薬協会長であり大日本住友製薬社長のお写真はかっこよいです。ダンディズムがほとばしっております。1968年東大経済学部卒、住友化学入社、2008年から大日本住友製薬社長で、現在70歳でいらっしゃるそうです。70歳で製薬企業の社長というのも驚きですし、個人的には新卒以来一度も転職していないということも驚きです。

製薬協の立場としては政府のジェネリック医薬品の普及推進には賛成をせざるを得ないでしょう。しかしながら先発メーカーの社長としては自社製品の売り上げを蝕む後発品の台頭は複雑な心境になるでしょうね。

「からだ・くらし・すこやかに」というコーポレートメッセージの大日本住友製薬。ジェネリック医薬品が安くなり普及すれば、くらしはよくなると思うのですが、実は今回の政府の打ち出した80%以上へ後発品数量シェアをアップさせるという方針には些か注文があるようです。つまりジェネリック医薬品が増えると当然ですが先発品の売り上げは減ります。ジェネリックが発売されている先発品は「長期収載品」ということになるでしょう。リピトールもアリセプトもたくさんの優秀な”元”新薬は、30以上のジェネリック医薬品にマーケットを明け渡しているわけですから、先発メーカーの売り上げは減りますよね。大日本住友製薬の社長が言っているのはまさにそこで、長期収載品の売り上げが製薬企業の利益の屋台骨であることはまちがいありません。この利益が減ってしまえば、企業は売り上げ高から研究開発費にかけるコストが回らずに、厳しくなるということなのです。簡単に言えば、そんなに新薬メーカーをいじめるなと。いうことでしょうか。

ただし「新薬出せねば行き詰まり」という見出しには、一般的な見解以上の意味があるような気がします。大日本住友製薬は2017年度に売上高4500億円、営業利益800億円の目標をかかげております。ところが開発中の抗がん剤「BBI608」の、結腸直腸がんを対象とした単剤の第3相国際共同治験が昨年の5月頃に中止が発表されるやいなや株価が暴落、その爪痕がまだ残っているのです。ちなみに2014年度の売り上げ高は3714億円で、対前年をも下回ってしまいました。この期待の新薬が出なければ当然のことながらこの中期見通しは見直しを迫られることになるでしょう。

大日本住友製薬に限らず今までオンコロジー領域を持たなかった製薬企業がこぞってオンコロジーのパイプラインの拡充を図っています。精神科領域を得意としていた大日本住友も開発の柱をオンコロジーに置き、2012年に米国のがん領域を専門とする創薬ベンチャー、Boston Biomedical, Inc.(BBI)を買収したのです。中止となったBBI608の結腸直腸がん対象の単剤治験は、北米では2015年度、日本でも2016年度の発売開始を目標としていました。これは正直痛手となっています。まあ、開発そのものをやめたわけではなく、単独中止後は併用療法などの使用方法に活路を見出そうとしているのです。

このボストンの会社、治験、なんでこけちゃったんでしょう。詳細は知りません。治験結果が思わしくなかったと言えばそれはサイエンスですから仕方がないということなのでしょうか。しかもそれが「想定外」だったということを社長も公言しています。筆者が昔所属していた日本の中堅製薬会社でも、似たような出来事がありました。奇しくもボストンにあるバイオファーマと提携し、投資を始めた途端に彼らのKPIが悪化したのです。疑いたくはありませんが、BBIの化合物は過大評価されたのでしょうか。それとも、プロトコルの書き方など、治験の人的な戦略そのものの失敗なのでしょうか。いずれにしてもBBIにとっては特段痛くもかゆくもないことかもしれません。すでに多額の売買益を得ているわけですから。サイエンスの結果は仕方がないとしても、そこに投資した判断はどうだったのか。まるで日本のプロ野球チームに所属するダメな多額の助っ人外人選手の様に。?

さて日本の中堅から大きな国内製薬メーカーは開発費に限界があります。ただ開発費の売り上げ高比率はグローバルファーマ同様に20%位を維持していますが、ボリュームが難しいですね。そこで海外のベンチャーに投資をしようとするわけですが、このベンチャーが失敗すると痛いです。

そんな中での、日経のインタビューでしたから、まあ、ちょっとタイミングが悪かったのか、「新薬出さねば行き詰まり」というインタビューになってしまったのでしょうか。

似たようなケースは今後も他の国内企業で出てくるはずです。治験の失敗はサイエンスのことで致し方ないとしても、KPIをキープすることや投資判断は人的なスキルセットの問題となりうるでしょう。ここは企業努力で上げていかなければならないかもしれません。それにはやはり人材も外から引っ張ってこないと難しいかもしれません。大日本住友製薬にかぎらず、大きな会社、特に財閥系の化学品部門の様な企業は役員のほとんどが新卒からの生え抜きで65歳以上ですね。生き残るには良い人材を外から連れてきて、組織を活性化することも必要かもしれませんね。

最近大塚製薬や小野薬品で目覚ましい画期的な新薬がグローバル基軸で出ていますね。日本の製薬企業発の新薬がもっと増えると良いですね。

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