私は普段はリクルーターの仕事をしています。次のステップを掴むチャンスを提供できる仕事。そして企業のゴールを加速させるような優秀な人材を提案できるやりがいのある仕事です。10年もやってますと、当然人々の動き、企業の動きの情報が頻繁に入ってくるのです。アグレッシブで、良い情報はとても歓迎なのですが、同時にできれば聞きたくもない妙な噂も聞こえてくるのです。
新しい会社、または、既存の会社に新しい部署・・・・聞こえが良いです。これからスタートということで、キャリアアップを目指すMRが挙って待ち望んでいるような組織ですよね。
ありがちなのは、日本のカントリーマネージャーや上層部(といっても、レポートラインがAPACにあるような、つまりHQのボードメンバーではなくて、上司がシンガポールなどにいるパターンですが…)が息のかかった事業部のトップを連れてくる。その事業部のトップはまあ、営業経験もあり、どこかで英語も学んだような方で、外国人の社長とはコミュニケーションが取れる人です。で、その事業部のトップが息のかかった、営業のトップを連れてくる。。。と。
ここまでは良いのですが。その事業部のトップなり、社長なりが、その営業のトップにMRの採用を一任してしまうことが多いのです。ここが問題の発端です。
当然営業のトップはダイレクターやマネージャーに元部下などを連れてきます。そしてさらにそのマネージャーやダイレクターが下の人間を連れてくる。つまりみんな仲良しです。
社長や事業部のトップから見れば、エージェントを使わずにMRの採用まで行えるので、莫大な経費の削減になるわけです。
ところが、このやり方が最大の失敗に繋がっていることに、社長も事業部のトップも気づかないまま、いつのまにか大所帯が誕生することになるのです。
この大リストラ時代です。人がたくさんあぶれている状況下です。そんな中に、素晴らしい新薬を引っさげて、会社の状況も良くて、スタートアップでMRを募集しているなんて、だれもが飛びつきたくなる案件ですよね。この数年に何社かありましたよね。だれもが飛びつきたいにもかかわらず、知り合いや息のかかった人たちでどんどんポジションが埋まっていくのです。
採用権限。人事権。このパワーがどんなに大きいか、このパワーの使い道を間違えると、どんな大変なことになるのか、この時点では社長や事業部のトップは知る由もないのです。
まさか、ゆめゆめ、俺たちが選んだ営業部長がMRの採用という仕事でヘマをするわけないだろう。あいつに任せておけば、とりあえず営業部隊は整うだろう。。
という感じで、タカをくくっていることがほとんどです。
転職希望のMRからみれば、当然、この営業部長と知り合いであることは大きな大きなメリットです。「私は、あの部長と一緒にやっていましたから」と、誇らしげに言う人も出てきます。また、なんとかその部長に近づこうとする人など、たくさんの人が渦巻きます。
その部長は、自分に権限があることはまんざらでもありません。人々が寄ってたかって自分を頼りにしてくる。いつまでもこのポジションで居たい。人間ならこうなります。
そしていつしか、取り巻きも保身に走ります。このリストラのご時世ですから、もうここから、この会社から、つまり、この人から弾かれたらそうそう簡単にチャンスはない。みんながそう思い始めます。結果的に、部長を取り巻く、組織ができてきます。
この組織には、できれば毛色の違った人を入れたくないという発想が生まれます。なぜなら、自分たちと考えの違う人や、また自分たちよりも優秀な人が来て、それらの人たちが評価されたら自分たちが弾かれる危険があるからです。ですので、ユニークな人間や知らない人間を排除しようとする動きが発生します。
本社内もギスギスし始めます。概ねこのような動きが、いま複数の企業で発生しています。
スタートアップ組織における、上層組織のマフィア化
とでも言いましょうか。本当によろしくないです。その後どうなるかと言いますと、実力のある熱い人が辞めていきます。そんなアホで固まった牙城に弾かれる前に他を探しますよね。残るのは、実力はないけどマフィア化した組織です。実力はないので、仕事がどんどん遅れます。遅れに遅れます。ただでさえ、スタートアップの組織はやることが多くて、そこにいる人は選ばれた優秀な人であるべきで、優秀な人でさえ難しい仕事なのに、マフィア化した無策で無能な方々がやろうとしているわけですから。当然そんな難易度の高い大変な仕事は不可能です。また、関係構築だけにフォーカスしてきた方々なので、そもそも実際に仕事そのものはやる気もないので、溜まった仕事を下の気の良さそうな人に押し付けます。押し付けられた人はなんとかやろうとしますが、仕事の質も高すぎて量も多すぎでどうにもなりませんし、それでもなんとか成し遂げたとしてもあまりにも報われないのでまた辞めていきます。
1年経ち、2年経ち、薬はとても素晴らしい製品なのですが、組織が酷い。そのうちにどうしてこうなっちゃったのと、APACの上司から指摘された日本のカントリーマネージャー(日本社長)が、慌てて、この段階になって、初めて気づき、部長なりマネージャーなりのリプレイスメント(取り替え)を考え始めることなるのですが、それじゃ遅いです。それじゃ、もう、本当に遅いのです。遅すぎです。
たくさん優秀な方を知っていますが、そういう方々は何も特定の人を頼ったりしないので、結局こういう素晴らしい新薬を持つ組織に縁がなかったりすることが多いです。また、縁あって、このような企業に入った方々も、弾かれてしまっています。ですので、勢いがあって良さそうに見える企業、このご時世に採用意欲が高いという珍しい企業でも、けっこう去っていく人がいます。
こんな状況にある企業が、少なくとも直接聞いただけで複数あります。今後はそれらの企業やメガファーマ内の新組織が成熟期に入り、本格的に人選に着手することになるかと思います。2016年は、こういう類の採用が増えそうです。